保育園は子どもたちをただ預かる場所ではなく育てる場所──「どろんこ会」の男性保育士が語る保育の現状と魅力

保育園は子どもたちをただ預かる場所ではなく育てる場所──「どろんこ会」の男性保育士が語る保育の現状と魅力

教育

目次[非表示]

  1. 保育士になって初めて分かった、保育の大変さとやりがい
  2. 男女に関係なく“自分らしさ”を活かし、子ども第一の保育を
  3. 「こうあるべき」に縛られず、子どもの個性を認めて育む
保育士というと女性のイメージが強い職業ですが、近年は男性の保育士も珍しくなくなってきました。とはいえ、2015年の国勢調査によると保育士の中で男性の割合はわずか約3%(※1)。そんな数少ない男性保育士の皆さんは、どんな思いから保育士になろうと決意し、また日々どのような保育を行っているのか?

今回は、男性保育士を積極的に採用している「どろんこ会グループ」(※2)の保育園で働いている男性保育士に集まっていただき、保育の仕事に携わる情熱や、子どもたちの成長のため日々心がけている保育、さらに保育士としてパパたちに伝えたいことについて語っていただきます。

※1:国勢調査 平成27年国勢調査の集計から抽出(https://www.e-stat.go.jp/
※2:どろんこ会グループにおける男性保育士の比率は約12%、施設長の場合は約25%


<どろんこ会とは>
「にんげん力。育てます。」を保育理念として掲げ、北は仙台、南は沖縄まで100以上の保育施設を運営。0~5歳児の子どもたちが年齢や障がいの有無を越えて共に暮らす異年齢保育・インクルーシブ保育を実施し、「にんげん力」を身につけるために必要な遊びや野外体験を通じて、子どもたちが自分で考えて行動する思考を育んでいる。
■どろんこ会HP
https://www.doronko.jp/

<座談会参加メンバー ※本文では敬称略>

・遠藤直樹さん(42歳)
メリー★ポピンズ エスパル仙台ルーム施設長。保育士歴21年。大学生の息子のパパ。
・横田修太郎さん(29歳)
朝霞どろんこ保育園保育士主任。保育士歴6年半。1歳の息子と3カ月の娘のパパ。
・大泉裕也さん(34歳)
武蔵野どろんこ保育園保育士。保育士歴9年。妻と2人暮らし。

保育士になって初めて分かった、保育の大変さとやりがい

──日本での保育士における男性の割合が少ない中、皆さんはなぜ保育士になろうと思ったのでしょうか?

遠藤「幼い頃から年下の子と遊ぶことが楽しく、慕われることに心地よさを感じていました。思春期になってもそうした子どもに優しくなれる気持ちが変わることがなく、子どもを育てる役割を仕事として果たしたいと思うようになりました」

横田「人のためになる仕事がしたくて福祉系の大学に進学し、ボランティアサークルを通じて福祉の現場に関わる中で、特にやりがいを感じて楽しめたのが児童福祉でした。やがて仕事として携わりたいと思うようになり、働きながら資格を取って保育士になりました」

大泉「私が4人兄弟の長男でもともと年下の子と遊ぶことが多かった中、高校の恩師に保育士という仕事を教えてもらったのがきっかけです。そして保育体験を通じて興味を抱き、進学を経て保育士を目指すようになりました」

──そうして保育士になった皆さんが、どろんこ会での保育に携わるようになったきっかけを教えてください。

横田「就活当時はまだ保育士になろうとは思っておらず、子ども関係の仕事を探していた時にどろんこ会のことを知ったのがきっかけです。『どろんこって何だろう?』とシンプルに興味を持って保育園を見学したところ、自分の今までのイメージとまったく違う環境に惹かれました」

大泉「保育士になってからどろんこ会の存在は知っていましたが、その保育内容を本格的に知ったのは、転職を考えていた時に参加した保育園の就職フェアです。縁側給食(自分で食事を盛りつけ、一緒に食べたい人も自分で決め、毎日の給食やおやつを縁側で食べること)や裸足保育(足指で地面をつかむ力をつけるため、室内・園庭で裸足・草履で過ごすこと)など今までやったことのない保育に興味を抱き、実際に体験・実践してみたいなと思いました」

遠藤「前の職場で小規模保育園の施設長を務めていて、キャリアアップを模索する中でどろんこ会のことを初めて知りました。独自の活動を取り入れていて、知れば知るほど興味が増したのを今も覚えています。特に関心を抱いたのは、どろんこ会の特徴である異年齢保育(クラス分けせず年齢の違う子たちが共に過ごすこと)。その難しさは私自身も体験する中で実感していたので、どのような保育を展開しているのか気になりました」
──そうしたイメージに対して、実際にどろんこ会に勤めてからどのような印象を抱きましたか?

横田「面白そうだなと思って飛び込んだものの、こんなに大変なのか!と感じることも正直ありました。ただ子どもたちと遊ぶだけではなく、しっかり狙いを持った上で安全を確保しながら接する必要があり、そこに難しさと同時にやりがいも感じています」

大泉「0歳から5歳という就学に向けての成長過程に、我が子のように携わることができるどろんこ会は、私にとって“第2の家庭”。その意味で、子どもたちも家庭のように安心して過ごせる環境を与えられるよう努めています」

遠藤「どろんこ会は子どもたちの主体性を重んじています。当たり前と思いがちな言葉がけが果たして子どもに必要なのか? それが子どもの活動の妨げになってないか? そうしたことまで深く考えながら保育できる喜びを感じています。また、キャリアに応じた研修制度が充実していることもあり、職員も積極的で主体性のある人が多いなという印象です」

──保育園には個性も家庭環境もさまざまな子どもたちが集まってくると思いますが、一人ひとりに対応を変えるなどの工夫はしていますか?

大泉「保育のベースとなるものは基本的に変わりません。ただ、母子家庭で男性との関わりが少ない子どもに対しては、『男の人も怖くないんだよ』と時間をかけて伝えるつもりで、心のよりどころになれるよう接しています」

横田「活発な子と大人しい子がいたとして、それぞれがやりたいことを保証してあげることが子どもの主体性につながると思っています。みんなが同じことをやる一斉保育のように誰かがやりたいことを我慢することなく、遊びの選択肢をたくさん確保することで自分たちが選べる環境を整えられるよう努めています」

遠藤「どろんこ会では共生社会の土台を築くために、クラス分けせず年齢の違う子たちが共に暮らす異年齢保育を取り入れ、さらにすべての大人がすべての子どもを育てるチーム保育を実践しています。もし子どもが担任と相性が合わなくても、園の中に一人でも安心できる大人がいれば子どもの心は安定します。そのように園全体を1つの家であり社会として考え、人との信頼関係を築くことができるチーム保育のメリットを、スタッフに日々伝えるようにしています」

男女に関係なく“自分らしさ”を活かし、子ども第一の保育を

──日々の保育の中で「男性保育士だからできること」はありますか?

横田「まず大前提として、どろんこ会では男女の違いや園内での役割の違いに関係なく、子どものことを一番に考えて行動している点では全員同じです。その上で、子どもと一緒に川に飛び込んだり泥まみれになるなど、思いっきり遊んだりふざけることで男性らしさというか自分らしさを発揮しています

大泉「男の子は戦いごっこが好きですよね。大人にはなかなか理解されない遊びではありますが、自分も小さい頃やっていたので、戦いごっこをしたい子どもたちの気持ちを受け止めてあげるようにしています」

遠藤「子どもへの接し方については、まさに2人が言った通りです。保護者の方から『男性保育士がいた方が不審者対応などのセキュリティ面で安心できる』という言葉を頂くことはあります」

──女性保育士と男性保育士との間で、子どもたちの反応の違いを感じることはありますか?

横田「私自身はあまり感じたことはありませんが、統計的に男性の方が子どもに人見知りされやすい傾向にはあるようですね。もしも保護者自身に『男性保育士が苦手』『女性保育士が苦手』という意識があれば、子どもも同じように感じることもあるでしょう。また、コロナ禍では父親以外の男性と関わる機会も少ないでしょうから、そうした影響も多少はあると思います」

──コロナ禍の影響は保育の現場でも大きく、さまざまな対策や制約を強いられていると思われますが、保育の対応で工夫していることはありますか?

大泉「保育中はマスクを着用しているため、子どもにニコッと笑う表情を見せてあげたいのに見せられないのは心苦しく思っています。そのぶん、目元や声色を優しくしたり、ボディランゲージで感情を伝えるようにしています」

横田「施設内の消毒など感染対策は日々徹底していますが、コロナ禍を生きている子どもたちに対して、手洗いやうがいの重要性を伝えるというプラスの要素としてもとらえています。今は、食事で自分が食べたいものを自分でよそうバイキング方式や、畑で収穫した野菜を調理して食べるといった従来の取り組みの一部が難しくなっています。それでも、食べたい物や量を大人が尋ねて子ども自身が決めたり、収穫した野菜の調理工程を加熱前まで一緒に体験したり、コロナ禍でもできることを工夫しています

遠藤「感染予防のため子どもたちの活動が制限される中、同じような到達を目指すために他の体験で代用できないか、スタッフたちは一生懸命考えています。また、感染対策もいい意味で慣れてきて、子どもたちに分かりやすく対策を教えたり、スタッフ同士でお互いにカバーし合うなどの意識づけができています。そうした意識が今まで以上に職員の間で高まったことは、ある意味でコロナ禍だからこその良い経験と言えるかもしれません

──保育士としての経験がご自身のお子さんの育児に役立ったことはありますか?

横田「保育を通じて子どもの発達を理解することができ、子どもとの関わり方や体調への気配りなど役に立つことしかありません(笑)。逆に、自分が父親としての気持ちを知ることで、保護者の方がお迎えにいらした際に『今日こんなことがありましたよ』と具体的にお話できるよう心がけるなど、保育の現場にフィードバックできたこともあります」

遠藤「自分の子どもと保育士として接するお子さんとでは育てる条件が異なるので、私の場合は育児と保育には一定の線引きを設け、教育方針も使い分けてきました。ただ、これまでたくさんの子どもたちと関わった経験は、我が子が見せる言葉や表情に対してどうアプローチすればいいか考える時に役立ったと思います」

「こうあるべき」に縛られず、子どもの個性を認めて育む

──今後、保育を通じて子どもたちに伝えたいことはありますか?

大泉「子どもたちには安心して楽しんでほしい。そのための環境を保育士が提供し、子どもたちが自分で選び生活していってほしいですね」

横田「私は『みんな違って、みんないい』という言葉が大好き。子どもたちにも他の人の個性を認め合いながら『これをやりたい』『こんな人になりたい』と未来への希望が湧くよう、保育の環境を整えたいと思います」

遠藤「子どもたちの人生において私たちが関わる期間は短いですが、幼少期は将来の人格形成に大きく影響する時期。社会とはこういうものだと子どもなりに知っていく中で、周りの人への感謝や思いやりを大切にしてほしいですね。また、一人ひとりの個性を自分なりに表現していいんだよ、と認めてあげることで自己肯定感の獲得にもつなげたいと考えています」

──そうした思いをよりいっそう実現するためにも、今後目指していることはありますか?

横田「保育園とは、いろんな個性を持つ子どもたちが触れ合える機会を担っている場所だと思います。どろんこ会の保育園には、障がいや発達に遅れのある子どもたちを支援する児童発達支援事業所が同じ園内に併設されている園もあり、発達の段階に関係なく混ざりあい、生活を共にできるようになっています。そうした子ども同士が触れ合える新しいアイデアをいろいろ考えているので、これからぜひ実現していきたいですね」

大泉「今はコロナ禍で子どもたちがなかなか外で遊べない状況ですよね。どろんこ会では毎月のプログラムとして青空保育を実施していて、園児だけでなく地域の方々にも参加していただくことでそうした状況を少しでも打破していきたいと思います」

遠藤「保育のあり方は時代と共に変わっていき、これという答えもありません。この仕事に長く携わっていく中で囚われがちな『こうであるべき』という固定観念を削ぎ落し、常に新しい情報や考え方を取り入れる余白を設けるよう意識していきます」

──最後に、皆さんの保育体験を通じて家menのパパ読者に伝えたいアドバイスやメッセージがあればお願いします。

横田「父親はこうあるべき、子どもはこうあるべきという一定の風潮が社会にありますが、どうあるべきかは自分が決めること。自分がどうしたいか、そして我が子がどうしたいかという本人の気持ちをみんなが認められるようになってほしいですね

大泉「今回の取材の前に家menの記事を読み、なかでも睡眠に関する記事がとても良い内容だと思いました。保育園の懇談会でも子どもの睡眠について悩んでいる保護者の方の声をよく聞くので、多くの人に参考にしてほしいですね」

遠藤「育児をしながら大変だなと感じることは多々あるかもしれませんが、それは育児に対して真剣に向き合っている証拠です。育児には答えがないので、難しくて当たり前。気負う必要はありません。子どもが親を求めてくれる時期は短いので、その難しさも含めて目いっぱい楽しんでください」

写真提供:どろんこ会グループ

▼あわせて読みたい