
「“子育て”ではなく、“子育ち”。親のエゴを通さないことが大事」Daddy's Talk 第6回・後編 西村創一朗さん(複業研究家)
各分野で独特の感性を発揮し目覚ましい活躍を遂げているパパたちは、どのような家庭生活を送っているのか──。そんな気になる疑問を掘り下げる「Daddy's Talk」。
今回は、大学在学中の19歳でパパとなり、起業、子育て、社外活動などパラレルキャリアを実践している複業研究家・西村創一朗さんへのインタビュー後編。若くしてパパになった西村さんならではの育児体験について伺います。
▼前編はこちら
長男の時の「ある失敗」から学んだこと
──現在、11歳の長男、7歳の次男、そして3歳の長女を育てていますが、年齢が離れているお子さんたちに対する接し方の違いはありますか?
もちろん一人ひとり性格が異なるので、それぞれに必要なケアポイントは配慮していますが、父親としての基本的なスタンスはそんなに変わらないと思います。圧倒的に娘に甘いところは否めませんが(笑)。
──やっぱり女の子には甘くなってしまうものですか。
可愛さのレベルがケタ違いですから(笑)。息子たちに「不公平だ」と言われてもどうしようもないんですよ。
──長男と次男はけっこうタイプが異なりますか?
見た目も性格もかなり異なりますね。見た目でいうと、長男は僕に似ていて次男はママ似。性格においても、長男は大らかでおっとりしているひょうきん者なのですが、次男はシャイな一方、小さい頃なんか気に入らないことがあるとすぐ殴ってきたこともあるくらい、やんちゃな一面もあります。
──そんなに真逆だと、1人目の育児パターンが2人目に通用しなくて大変だったのでは?
苦労だと感じたことはありませんね。子どもとはいえ一人の人間であるわけですから、彼らの性格に沿って接していくように努めました。
もちろん1人目の育児経験がまったく通用しなかったわけではなく、例えば長男がノロウィルスに感染したことがあり、当時は大変なことになったのですが、その体験を踏まえて次男の時はさほど慌てることなく乗り切ることができました。様子を見ているだけで「これはヤバイな」と危機感センサーが働くようになったんですよ(笑)。
──子どもに必要な健康対策は性格のギャップを問いませんからね。前編では初めての育児に戸惑った経験を教えていただきましたが、長男への接し方で試行錯誤したことはありますか?
僕はサッカーが好きで週末には少年チームのコーチも務めているのですが、長男には本人の意思に関係なくサッカーを「やらせた」んですよ。僕から練習内容にいろいろ口出しされるうちにサッカーが嫌になり、嫌だから上手くならず、上手くないからチームメイトにからかわれる…という負のスパイラルに陥ってしまい、結局長男はサッカーを辞めました。
──本人がやりたくないことをさせてしまったのが悪循環の始まりだったのでしょうね。
この出来事は僕にとって忘れられない失敗体験となり、「自分からやりたいと思わないことに対して子どもは本気になれないものだ」と学びました。だから次男の時は「〇〇をやれ」と一切言わないことにしたのです。結果的には自分から「サッカーをやりたい」と言い出し、今度は練習の時もあれこれ口出しせず「楽しい」と熱中できるようほめることに徹しました。
ちなみに長男もサッカーを辞めた後は、自分でやりたいと思った卓球に熱中しています。
──そうした経験則から導き出した、西村さんにとっての子育てとは?
本人のやりたい気持ちを大事にすることですね。その代わり、子どもが何に興味を示してもいいように、何でも体験する機会をとにかく提供し続けるように心がけています。「数打ちゃ当たる」ではありませんが、子どもの関心にヒットするものと必ず出会えるはずですから。
あとは、親のエゴを通さないこと。「子育て」という言葉は親が主語になりますが、そうではなく子どもを主語にした「子育ち」が本来のあるべきカタチ。子どもは本来自分の力で育っていくものであり、子育ちを邪魔せずその土壌を整えてあげ、育ちを促すことが親の務めだと思っています。
──「子育て」ではなく「子育ち」を通じて得られた楽しさや喜びがあれば教えてください。
まず第一に、自分が好きなことを一緒に楽しめること。サッカーの試合を一緒に観戦したりテレビゲームをやったり、親子というより友達のような感覚で共通の楽しみを体験できることは格別ですね。
もう1つは、子どもの成長を子ども自身と一緒に喜べること。今年の夏にようやく長女がオムツを卒業できたのですが、そうした小さな成長の瞬間に居合わせることができるのも嬉しいことです。
仕事と家庭以外にも“つながり”を作る意義
──前回のインタビューで、学生時代からNPO法人ファザーリング・ジャパン(FJ)の活動に参加した経緯を教えていただきましたが、仕事や家事育児に時間を追われながらそうした活動を続けていく理由は何ですか?
社会人になるとどうしても自宅と会社を往復するだけの毎日になりがちで、自分の所属するコミュニティも限られてしまいます。その点、FJという会社以外の人とつながる場があることで、自分の視野を広く保つことができました。
──一般的にパパはママと比べて仕事以外のコミュニティでつながりを作るのが苦手なところがありますが、何かアドバイスできることはありますか?
例えばパパ友みたいなつながりを地元で作りたいと潜在的に思っている方は多いはずなのに、どうも照れくささに邪魔されているようです。まずは公園で子ども同士が一緒に遊んでいるパパに気軽に話しかけるなど、一歩踏み出すことですね。そうした会話をきっかけに、パパの世界がもっと広がっていくはずですよ。
──西村さんはさらに昨年、パパたちが互いに等身大で悩みや思いをさらけ出し支え合える場として「Papa to Childen」の立ち上げにも関わりましたが、これらの活動を通じて感じている課題やテーマはありますか?
あくまで個人的な想いにはなりますが、まずは「イクメンという言葉をなくそう」ということ。この言葉には「女性の役割である育児を行う男性はカッコイイ」みたいな考えが根底にあって、もはや古い概念だと思うんです。2人揃って親なんだから、男性が育児を行うのは当たり前のことじゃないですか。
そうした大変だけどやりがいがある育児を、夫婦の協働プロジェクトとして楽しむ人を増やしたいですね。
──そのために西村さんにできることは何だと思いますか?
ともすれば育児は大変な側面がクローズアップされがちです。大変なのは確かだけど、育児には大変さを補って余りある楽しさも体験できるわけですから、そのやりがいをもっと発信していきたいですね。
──ネットはネガティブな言葉の方が強い力を持ちがちですよね。
日本人ってシャイなところがあるじゃないですか。「ウチは鬼嫁でさ~」なんて妻のことを卑下したり。でもそうやって結婚のネガティブな部分ばっかり拡散されると、「結婚って面倒くさい。育児って大変そう」というイメージが、これから結婚する若い世代にも根付いてしまう。だからこそあえて、既婚者から言葉として出てこない結婚生活のポジティブな部分を伝えていくことが僕の役割だと思っています。
──家menもパパメディアとして西村さんと同じような役割を担いたいと思うのですが、何かアドバイスを頂けますか?
今回の「Daddy's Talk」のように“理想のパパ像”を探ることは意義があるし読み物としても面白いのですが、自分に当てはめづらく参考にしづらい部分もあるじゃないですか。等身大のパパの姿も併せて発信し、より多くの人が共感したり参考にできる情報をもっと伝えてほしいですね。
今回のインタビューで特に印象に残ったのは、「子育て」ではなく「子育ち」という言葉。ともすれば子どもの進む道は保護者である親の主導で決められがちだけど、果たして子どもの自主性を奪ってしまっていないか──というメッセージが、自分の育児への戒めとなりました。
そうした大変さを補って余りある楽しさも体験できる育児のポジティブな側面を、西村さんのように家menでも積極的に発信していきたいと思います。
▼前編はこちら
▼Daddy's Talk 過去の記事はこちら
<インタビュー協力>
西村創一朗(複業研究家/HRマーケター)
1988年生まれ。首都大学在学中の19歳でパパとなり、卒業後はリクルートキャリア(当時リクルートエージェント)に在籍する傍ら、複業の普及や育児と仕事の両立を目指す株式会社HARESを設立。2017年に独立し経営者として働く一方、ランサーズ株式会社のタレント社員として人事・広報(HR・PR)を担当。2019年4月からAI転職エージェントサービス「GLIT」を運営している株式会社Caratの事業責任者を務める。著書に『複業の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン・刊)。私生活では3児の父で、NPO法人ファザーリング・ジャパンの理事なども務める。