「食卓を囲むことで、子どもは愛を知っていく」Daddy's Talk 第11回・後編 和田率さん(クリエイティブディレクター)

「食卓を囲むことで、子どもは愛を知っていく」Daddy's Talk 第11回・後編 和田率さん(クリエイティブディレクター)

育児

目次[非表示]

  1. 母から受け継いだ食の重要性と“ベロシップ”を実践
  2. 「好きにやらせる」ことで子どもの想像力と自立心が育まれていく
  3. 長年連れ添う中で自然と確立した妻との家事分担
各分野で独特の感性を発揮し目覚ましい活躍を遂げているパパたちは、どのような家庭生活を送っているのか──。そんな気になる疑問を掘り下げる「Daddy's Talk」。

今回は、元CMプランナーでキッチン用品ブランド「remy」を主宰する和田率さんへのインタビュー後編。和田さんの家庭像や子育て方針について、料理愛好家の母・平野レミさんから受け継いだ教えと共に語っていただきます。

母から受け継いだ食の重要性と“ベロシップ”を実践

──和田さんはもともと電通のCMプランナーとして活躍されていましたが、どのようないきさつでキッチン用品ブランド「remy」を立ち上げるに至ったのですか?

CMプランナーの仕事は大好きでした。徹夜仕事も多かったですが、とにかく夢中だったので、結婚したからといって、働き方を変えることはありませんでした。でも、2014年に3人目の子どもが生まれた時に、「このままだと、何か大切なものを失うぞ」と気づいたんです。仕事とライフステージがフィットしなくなったというか。それが転身のきっかけです。

──どのように価値観が変わったのですか?

小っ恥ずかしい話ではありますが、人生で一度しかない子育て期に、できるだけ子どもと過ごす時間を長くしたいと思ったんです。同時に、みるみる成長する子どもを見て、“子どもが口に入れるものがいかに大切か”を痛感して、食と密接な関係にある、キッチン用品ブランドを立ち上げました。

──そうした食に対する考えは、お母様の平野レミさんからの影響も受けているのでしょうか?

実家で暮らしていた頃は、毎朝学校に行くときに「行ってらっしゃい」の代わりに「野菜食べなさい」と言われていました(笑)。外で食べ物を買う時には「必ず袋の裏面表記を見なさい」と教えられました。成分表記を見てカタカナの成分が多い食べ物は体に良くないから買っちゃダメ!ということなんです。こうした食意識が、幼い頃から植え付けられていたんでしょうね。

──和田家には「ベロ(舌)シップ」という食にまつわる教えが受け継がれているそうですが、これはどういうものなんですか?

音の響きが強烈ですが、「ベロシップ」は母が考えた造語で、肌より舌でコミュニケーションを取るのが大切だよね、ってこと。親の味に慣れさせると、自然と子どもが「家に帰ろう」「家でご飯を食べよう」という気持ちになる。たしかに、僕もたまに実家の料理を食べたくなるし、うちの子も、スーパーのお惣菜より、家庭の味を好みます。「夫の胃袋をつかむ」という言葉はよく聞きますが、「子どもの胃袋をつかむ」に近いかもしれませんね。

──なるほど、親の手作り料理を通じて絆を育むということですか。

カッコよく言うとそうなりますが、困ったこともありますよ。たまに外でファストフードを食べると、生意気にもよく残すんです。嬉しいような、悲しいような。でも、いずれ子どもたちが家から巣立っても、「またパパママの料理を食べに家へ帰りたい」って気持ちになったら嬉しいですね。

──和田家では食事の時間をとても大切にしているんですね。

家族みんながゆっくり向き合える時間って、食卓以外にあまりないですからね。大切なコミュニケーションの時間です。そういえば、家族で食事をする機会が少ない子ほど、少年犯罪に走りやすい、というデータもあるそうですよ(※1)。親の作るご飯は、ある意味“愛情”です。それを貯金している子ほど、人に与える愛も大きくなるんだと思います。

「好きにやらせる」ことで子どもの想像力と自立心が育まれていく

──食育以外で子育てにおいて心がけていることはありますか?

できるだけ子どもたちの考えを尊重し、「好きにやってみな」と自分で判断させるようにしています。親がレールを敷くと、子どもの主体性や想像力はなかなか育ちません。子どもが本当に困った時だけ、親が手を差し伸べる。それくらいの距離感がちょうどいい。自由にやらせすぎた結果、前に住んでいた家は壁中落書きだらけで、クリーニング代が大変でしたが(笑)

──成功するか失敗するか、いいことか悪いことか、身をもって体験しないと子どもにはよく分からないですよね。

ですね。妻も同じような考え方で、例えば公園で子どもが危なそうな遊びをしていても「一度痛い思いをすれば、二度とやらなくなるから」と平然としてるんですよ。妻の方が男っぽいところがあって、それはそれで焦ることがあります。

──その「好きにやらせて、身をもって子どもに気づかせる」という価値観はどのように育まれたのですか?

なんですかね〜。和田家流の教育方針があったとしたら、塾でも習い事でも「イヤだ」と言うと、すぐに認めてもらえることでしょうか。母はその昔、高校に行きたくなくて山手線を一日中ぐるぐる回ってたことがあって、それを恐る恐る祖父に告白したら、「辞めていいよ」って即答されたそうです。母はそれがすごく嬉しかったようで、僕や兄にも同じスタンスで接していました。気づけば、うちの子にも同じことをしているので、やはり、親の影響力は大きいですね。

長年連れ添う中で自然と確立した妻との家事分担

──前回のインタビューで「奥様との家事分担の一環でお弁当作りを始めた」と語っていましたが、他にどのような家事分担を行っていますか?

僕が掃除機をかけるとゴミを吸い残すし、洋服の畳み方もアバウト。なので、妻からは「やらないでいい」と言われています(笑)。逆に、家計の管理や生活用品の買い足しなどは、妻の苦手分野なので、僕の担当。お互いの得意不得意を補うカタチで、自然とそうなりました。

──奥様とは役割分担のルールを厳密に設けていますか?

いえ、ゆるゆるですよ。お互い仕事に波があるので、家事は気づいた方がするのが原則です。10年一緒に暮らしてみて、結果としてそれが一番ラクなことが分かりました。

──家事分担以外に奥様へのケアで心がけていることはありますか?

仕事や家事に追われて、妻の顔が明らかに怖い時があるので、そんな時は「今日は外食してビールでも飲むべ!」と誘ってあげます。妻は子どもにはできるだけ家のご飯を食べさせたがるので、たいてい断られますが、本当に疲れている時は「うわ〜助かる〜」って返ってきます。その返事によって、妻のストレス指数が分かります(笑)。

──たまに外食に頼るのは、家事の負担を減らすには有効ですからね。

外食もそうですが、家で飲むビールも特効薬です。晩酌しながら、今日あった事を話してみる。子どもに邪魔されてロクに会話になりませんが(笑)、1日10~20分くらいお互いの仕事の会話をする夫婦は、関係が円満になるそうですよ(※2)。きっと、家の外の世界を共有することで、お互いの理解を深められるんでしょうね。幸い、好きなお酒も飲む量も同じなので、「そろそろ寝るか」のタイミングも同じで良かったです。

──今後の家庭生活において目標はありますか?

どの家庭よりも笑っていること。まだまだ全然できていないし、家事育児には苦難は多いですが、楽しもうとする努力をあきらめてはいけないと思うんです。親の笑顔が増えれば、子どもの笑顔が増えるし、子どもの笑顔こそ、家庭の最大の栄養ですからね。
ベロシップに自由主義。和田家に代々伝わる教えは一見ユニークですが、どれも理にかなっているし、子どもを一人の人間として尊重し、大切に思っているからこそできること。今回のインタビューを通じて、「親の愛はちゃんと子どもに伝わる」という勇気を十分もらえました。
<インタビュー協力プロフィール>
和田率さん
(remyクリエイティブディレクター)
電通のCMプランナーを経てキッチンブランド「remy」を立ち上げ、キッチンウェアの企画デザインやアプリ開発などに携わっている。主な受賞歴にグッドデザイン賞、キッズデザイン賞、人間工学グッドプラクティス賞ほか。私生活では三児のパパで、2017年から子どものお弁当を作るようになりその記録をInstagramに投稿している。著書に『お弁父』(ネコ・パブリッシング刊)。

※1:第4回 非行原因に関する総合的研究調査(共生社会政策統括官)
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikou4/gaiyou/gaiyou.html

※2:週5日勤務の共働き夫婦 家事育児 実態調査2019(株式会社リクルート HR 研究機構 iction!事務局)
https://www.recruit.co.jp/sustainability/data/iction/pdf/workingcouple2019_106.pdf


写真:木原基行

▼和田率さんインタビュー前編はこちら