パパ向けメディアがない!「家men」を始めた背景と目的を改めて聞いてみた

パパ向けメディアがない!「家men」を始めた背景と目的を改めて聞いてみた

育児

目次[非表示]

  1. パパ向けの家事育児情報がほとんどない
  2. 編集部にはパパがいなかった
  3. メディアからコミュニティへと舵を切ったワケ
  4. パパ仲間と交流できる家事・育児のサードプレイス
「オトコたちの家事を楽しく。毎日を楽しく。」をテーマに、2017年にスタートしたパパ応援WEBメディア「家men」。

今では、「パパ友」や「家men向上委員会」も立ち上げ、単体WEBメディアにとどまらず、多角的にパパを応援するコミュニティになってきました。

では、この「家men」はそもそもどんな経緯で始まったのでしょうか? 設立メンバーの1人、家men編集部の四禮遥さんに伺いました。
<お話を伺った人>
四禮遥(しれいはるか)さん

<プロフィール>
新卒で株式会社 オプトへ入社し、アカウントプランナーとして主に美容系企業様のマーケティング支援に従事。株式会社 東北新社へ転職後、企業様のセールスプロモーションや自社の新規事業開発、映画・海外ドラマのデジタルマーケティング等を担当。2017年11月に自社の新規事業として立ち上げたWEBメディア「家men」設立メンバーのひとり。

パパ向けの家事育児情報がほとんどない

―まずは「家men」を始めた背景から教えてください。

きっかけは、わたしが勤めている東北新社の中で新規事業や新サービスを立ち上げようという動きがあり、2017年に私がそのチームにジョインしたことです。

もともと私は「誰かの役に立つサービスを作りたい」と思っていたので、それを軸にいくつものアイデアを考えていたのですが、その頃は共働き夫婦がとても増えていた頃。私自身も結婚したばかりというタイミングで、家事や育児の分担などについて考えていたところ、男性に向けたサービスがほとんどないなと気づいたんですね。そこで、「家族を笑顔にできるサービスを作りたいな」「パパを応援できるようなサービスを作りたいな」と、パパ向けのメディア「家men」を作るところから始めました。
そして、「家族をもつ男性、ひいてはその家族の毎日・人生を豊かにする」をビジョンに。「毎日の『家事』『育児』が原因で家族の笑顔を減らさないために、家事育児に困る男性をなくし、家事シェアがうまくまわる仕組みをつくる」をミッションとしました。

──パパ向けの事業を考案する中で、ご自身のパパとの思い出も影響している部分があるそうですね?

はい。私の父は自由業で日中家にいることも多く、ご飯を作るのは主に父でした。でも、当時まわりにそういう家庭はまだ多くなく、「なんでパパが買い物してるの?」「なんであのうちのパパは昼間いるんだろう?」と言われることも……。

そんな時代から変わりつつある中で、もっとみんなが自由にライフスタイルを選べるとか、育児もパパとママで50%ずつじゃなくていいとか、もっと自分らしく生きられるようになるといいなと実体験からも思っていました。

――「家men」には、一般的なイクメンという言葉や、パパが家事・育児に参加した方がいいという雰囲気とは違う風に感じます。そのあたりはどうお考えですか?

働き方や家族のあり方も多様化する中で、「家men」としては「こうすべきである」と決めつけたくないなと思っていて、編集方針としても「こうしなさい」「こうすべき」とは言わないようにしています。家事・育児も50%ずつじゃなくていいし、それぞれの家庭に合った幸せの形を見つけてもらいたいな、と。

そのためには、育休を取りたいけど取りづらいといった声もまだあるので、実際に育休を取ったパパの声や、いろいろな家庭のロールモデルをWEBメディアを通して届けることで、「うちの家族はこうしていきたいな」と思ってもらうきっかけになれたらいいな、と思っています。

家men編集部 四禮遥

あまり「ソーシャルグッドである」とか「社会貢献を実現するために」という部分から始めた事業ではないんですが、「パパでも育児を楽しみたい」とか「今はできていないけど、もっと家事育児を頑張りたい」と思っているとか、そうした人たちに寄り添えるようなメディアを目指して、悩みを相談しあったり気持ちが楽になれたりする場所を提供したいと考えています。
――結果的に「家men」は社会貢献になるメディアとなりましたが、一方で新規事業として始められています。ビジネスとしては、どのように考えていますか?

パパ向けのWEBメディアって、片手で数えられるぐらいしかないんです。でも、実際にはパパが家事や育児に参加する機会が増えて、今までママが買っていた洗剤や日用品をパパが手に取る機会も増えています。そうなると、メーカーさんは広告やマーケティングをママ向けではなく、両方に向けたものにする必要がありますよね。

そこで、パパに届けられるメディアを作って、広告のビジネスモデルができればと思っていました。ただ、始めてみて1年ぐらい経ったところで、WEBメディアだけでは当初のビジョンやミッションは達成できないなと……。

そこで、今はWEBメディアに加えて、コミュニティ、オンライン/オフラインのイベントなど幅を広げました。ここでパパやファミリーと企業さんの接点を増やして、ビジネス観点でも貢献できるようにしていきたいと考えています。

編集部にはパパがいなかった

――新たに「パパ友グループ」というのを始めましたね。これはどんなきっかけで作ったんですか?
私を含めて「家men」の編集部メンバーは年齢も30歳前後と若くて、既婚者はいても子どもがいないメンバーばっかりだったんです。

もちろん、パパ向けのメディアとしてパパの声を拾ってきたつもりではいましたが、メンバーにパパがいないとなると、「本当にパパが求めている情報を届けられているだろうか?」と思うこともあって、実際にパパの声を聞ける場として「パパ友グループ」というコミュニティを作りました。

ママと違って、パパって井戸端会議をたくさんするわけでもないですし、あまり人数は集まらないかなと思っていたのですが、予想以上にたくさんのパパに参加してもらうことができて、改めてニーズに気付かされましたね。そこから、パパコミュニティをもっと拡大していこうと思いました。

――WEBメディア以外の活動も開始されたとのことですが、具体的にどんな活動をされていますか?

大きくは先ほど申し上げたWEBメディア、コミュニティ、オンライン/オフラインイベントの3つです。

家menのビジョン/ミッション

「パパ友」コミュニティはFacebookの非公開グループをメインに、オンライン/オフラインで交流会をやったり企画や悩みを募集して記事化したりといったことをしています。

イベントでは、大規模なファミリー向けイベントに出展して親子向けワークショップを開催したり、プレパパ・プレママが来るイベントでは育児情報を届けてこれから子どもを持つ方たちに啓蒙している他、家電メーカーさんと親子料理教室を開催したりもしました。コロナの影響でリアルなイベントは難しくなりましたが、Zoomなどを使って20~30人規模のオンライン交流会や座談会もやりました。

「パパ友」コミュニティ初めてのオフ会の様子

――ビジネスとして考えればママ向けの方が強い中で、パパをターゲットにするというのは本当に珍しいですよね。

正直、ビジネスという観点では思った以上に時間がかかっているというのが現状です。共働き世帯が1200万世帯を超えていたので、立ち上げた当初は「3年以内に男性の家事育児のマーケットは拡大する」と読んでいたんですが、思ったほど伸びておらず、パパやママが抱える課題の根深さを感じました。

働き方改革と言われていても、実際にはママの家事育児にかける時間がすごく長いとか、パパはパパで家事スキルに自信がない、そもそも何をしていいかわからないなど……。育休を取りづらい会社もまだまだ多いですし、社会が変わっていくには時間がかかるんだなと痛感しています。

――日本では男性の方が、労働時間が長く収入も多いので、「パパは稼いでくる役目」になりがちではありますよね。

そうですね。今はいろいろな働き方があるし、家族の形だってたくさんあります。共働きだけではなくて、専業主婦世帯もいますし、主夫世帯の家庭も増えていますから、その家庭にあったベストなライフスタイルが実現できるようなお手伝いができたらと思っています。

――では、その実現に向けて今どんなことが課題だと感じていますか?

「パパ友」コミュニティでは、「家事・育児の話ができる人がまわりにいない」「育休を検討しているけれど相談できる人がいない」という声が多くて、「実際のパパの話を聞きたい」「パパ同士で情報交換したい」というニーズがとても高かったんです。やはり、情報交換ができる場を設けることは大切だなと思いました。
▼パパ同士の情報交換の機会となったオンライン座談会の様子
全国各地から参加してくださる方が増えているのは嬉しい一方、マンパワー的に全国でオフラインイベントを展開していくのは難しいので、どのように全員に向き合えるアクションを起こしていけるかが、大きな課題だと感じています。また、一人ひとり悩みは違うことをオンライン交流会で「生の声」を聞くことを通じて実感しているので、家族の形が多様化する中で、常にいろいろな声を拾っていくべきだなと思っています。

ビジネス的には、もはや単なるメディアではなく、コミュニティを持つ“パパプロジェクト”のようになっていて、スタート当初を比べると「一緒に何かやりたいね」と言ってくださる企業さんは増えました。とはいえ、企業としては、パパをターゲットにするのはまだまだチャレンジングなことですから、私たちがどんな施策や企画を作れるかが問われているところですね。

メディアからコミュニティへと舵を切ったワケ

――そもそも、コミュニティに注力するようになった理由は、どこにあるのでしょうか?

メディアだけでは「もっとパパとつながりたい」「情報交換したい」といったニーズに応えられないので、もっと皆さんに寄り添って活性化していけるようにと、コミュニティにも力を入れるようになりました。日本全国のパパさんが、職場でもお家でも話せないような悩みを相談できる場を作りたいなと。

そして、企業さんにパパたちの声を届けて、商品化やマーケティング活動につなげていただいて、企業とパパたち双方にとってメリットのある場にしたいと思っています。イベント開催もたしかに大切ですが、その場限りで終わってしまうので、コミュニティという継続的にコミュニケーションが取れる環境は大事だと思います。

――新たに「家men向上委員会」を立ち上げられましたが、これはどんな狙いで?

私たちの力不足もあり、なかなかパパたちとのインタラクティブなコミュニティが作れていない現状がありました。そこで、約150人以上いる「パパ友」コミュニティのパパたちの中から、8人にご協力いただいて、どうしたらもっとよいコミュニティにできるかなどをパパの視点で一緒に考えてもらう「家men向上委員会」を立ち上げました。

これからは、パパが主体となった活動を増やしていきたいなと思っていて、すでに一度、家men向上委員会の皆さんが主体でオンライン交流会を開催しています。企画から告知、当日の進行などもやっていただきましたが、実際にやってみると、私たちがやるよりもアットホームなイベントになって「やってよかった」と思いましたね。他にも、コミュニティの活性化に生かすためのオンラインアンケートを、向上委員会の企画で実施しています。
こうした活動を通じて、私たちが思っていた以上にパパたちの想いが強いことがわかりました。「自分の経験を役立てたい」とか「もっと社会をこうしていきたい」とか、パパの可能性をすごく前向き捉えて真剣に考えてくださっていることがわかって、嬉しかったですね。

パパ仲間と交流できる家事・育児のサードプレイス

――これから「パパ友」や向上委員会も含めて「家men」をどのようにしていきたいと考えていますか?

「家men」は、ママが読んでも役立つ記事を発信しているので、夫婦で読んでもらえるような、家族に愛されるメディアに育てていきたいと思っています。

「パパ友」コミュニティについては、「パパになったら『パパ友』に入ろう!」と思ってもらえるぐらいに認知を広めることが目標です。メンバーのパパが「ここに入るとすごく楽しいよ、役に立つよ」と口コミでおススメしたくなるようなコミュニティにしていけたら理想的だなと思いますね。

メンバーの中には、プレパパから高校生のお子さんを持つ方までいろいろなパパがいるので、相談や情報交換がすごくしやすいと思うんです。「パパになったら『パパ友』に入ると心強いよ」と言ってもらえるようになると、嬉しいですね。

すでに「パパ友」も向上委員会も、サードプレイス的な場所として使ってもらえているので、仕事でも家庭でもない場所で、損得感情のないフラットな関係の人と話せるいいコミュニティになっているのかなと思います。

パパママが中心の家men編集部

また、家men編集部もどんどん社内の仲間が増え、当初は子持ちが一人もいないチームでしたがいまではパパママが中心の組織になりました。より一層パパママ視点でWEBメディアもコミュニティも、パパさんに寄り添ったものにしていきたいです。

ただ、パパ市場はこれから伸びてくるとはいえ、まだまだ小さな市場ですし、「家men」単体でできることは限られているなと感じています。今後は、他のパパの団体さんや他のメディアさんなど、横のつながりを増やして、みんなでアクションしていけるようになるといいなと思っています。企業同士さんとも、もちろん競合という考え方もあるとは思いますが、あくまで仲間として一緒に市場を大きくしていくビジョンを描けたらいいですね。
(インタビュー:松嶋活智、まとめ:木谷宗義/type-e)
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