
「家事育児の質は、圧倒的な量から生まれる」Daddy's Talk 第2回・後編 梅田悟司さん(元電通コピーライター)
各分野で独特の感性を発揮し目覚ましい活躍を遂げているパパたちは、どのような家庭生活を送っているのか──。そんな気になる疑問を掘り下げる「Daddy's Talk」。
今回は、電通コピーライター時代に数多くの名コピーを生み出したインクルージョン・ジャパン株式会社取締役・梅田悟司さんへのインタビュー後編。前回ご紹介した4ヵ月間の育休体験を経て培われた、梅田さんの夫像・パパ像について伺います。
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妻の誕生日だから1日自由に…って正直やばい
──梅田さんは普段ご家庭でどのように過ごしていますか?
平日は朝6時半に起き、“昨日からの宿題としての家事”を朝のうちに済ませることを日課にしています。子どもが1歳になるまでは必ず夕食の時間には帰宅していたのですが、仕事が忙しくなってくると、がんばって子どもが寝る前に帰宅できるようにしています。
──“昨日からの宿題”とは、具体的にどのようなことですか。
例えば、前日に洗って水切りカゴに置いていた食器を拭き食器棚に戻す、お風呂を掃除する、部屋干しの洗濯物を畳む、猫のトイレを片づける…。こうした「マイナスをゼロに戻す家事」を1時間かけて行うのです。
──マイナスをゼロに戻す家事を行うことで得られるメリットはありますか?
例えば、洗濯物を取り込んでいなかったり、洗った食器がそのまま置いてある状態だと、1日の家事を気持ちよく始められませんよね。地味に家事への意欲を削がれてしまうんです。
そこで、僕がゼロにリセットしておくことによって、妻が1日のスタートを、新しく前向きな気持ちで迎えられるようにするのが目的です。いわば“気持ちのホスピタリティ”ですね(笑)。
──他にも率先して行っている家事はありますか?
簡単な料理はよくしますね。野菜がたっぷり入った焼きビーフンを作ったり、鶏スープを作ったり。手間や時間が掛かる、難しい料理は作りません。それよりも、さっと作れてぱっと食べられる定番を幾つ作れるかが「代打」である自分の役割であると思っています(笑)。
──平日は家族で一緒にいられる時間が短そうですが、休日はどのように過ごしていますか?
日曜は家族みんなで過ごし、土曜は妻が1人になれる時間を作るためにも父子2人で遊んだり、お出かけしたりしています。無料の博物館、年間パスポートのある動物園、電車を眺められる休憩スポット、モノレールに乗って行ける空港エアターミナルなど定番コースがあって、約1カ月単位でローテーションしています(笑)。
──1人になれる時間があると奥様も喜んでるのではないですか?
いえ、我が家では当たり前のことなので、土曜になったらいつも「今日はどこに行くの?」と声を掛けられます(笑)。
SNSを見ていると、妻への誕生日プレゼントとして「家事や育児から丸1日解放して自由に過ごしてもらうようにした」というエピソードが美談のように語られることがよくありますけど、それって正直やばいなと思います。誕生日だからとかではなく、当たり前であるべき。
外で仕事をしていると、ちょっとした楽しいことだったり、新しい出会いがありますよね。大きく言えば、刺激です。そうした刺激を、家事育児にかかりっきりで普通に持てないのは正直しんどいと思いますよ。
子どもとは“一緒の体験”を、妻とは“対話”を大切に
──お子さんとのコミュニケーションで心がけていることは?
どんな体験でも子どもと一緒に行うように努めていますね。例えば、子どもがアニメのDVDを見たいと言ったら独りぼっちで見せずに、僕も一緒に見て「○○が出てきたね」なんて声掛けしたり、感想を語り合ったり。そうした“一緒にやる”ことで生まれるコミュニケーションを大事にしています。
──お子さんとずっと一緒に過ごしていて、急にぐずったり不機嫌になって困ったことはありませんか?
毎日です(笑)。そこで気をつけているのは、子どもの不機嫌につき合い過ぎないことです。そこで大人が気を使いすぎると、逆に子どもは自分の力で不機嫌の世界から抜け出す方法を持たなくなります。
そんな時は、大人がご機嫌で楽しそうにしていることがいちばんだと感じています。すると子どもは“楽しい輪”の中に入りたくなって自然に寄ってきて、いつの間にか楽しい気分に戻ってくれますよ。
──なるほど。大人も子どもも笑顔になれる、素晴らしい対処法ですね!
大人がご機嫌な態度を見せて子どもの機嫌を直すといった対応を、家で子どもと一緒にいる時間が長い女性に毎日求めるのは酷なことです。子どもと過ごす時間が短い男性だからこそできることだと思います。
──先ほど、マイナスをゼロにする家事を“気持ちのホスピタリティ”と表現していましたが、他にも奥様へのケアとして実践していることはありますか?
子どもを寝かしつけた後などに夫婦で対話する“大人時間”を、だいたい2時間ほど設けるようにしています。話す内容は「今日こんなことがあったんだよ」といった他愛のないことだったり、ちょっとした小競り合いだったりするのですが、家にいる時間が長いからこそ、大人と話すことが気持ちの発散につながると感じています。
僕も育休中に家の用事で1日ずっと外に出ない日がよくありましたが、外の社会と接点を持たないと心を病んでしまうな…と痛感しました。だから僕は妻に「今日何があった?」と積極的に声掛けしたり、カフェに行く代わりにコンビニコーヒーを2つ買って帰ったりということを心がけています。
──やはり夫婦の対話は大事ですか。
夫婦というのは子どもが生まれる前と後では、子ども優先で夫婦の会話が減ったり、育児方針を巡って意見が対立するといった、夫婦関係の変化は避けられません。
でも家族というのは、元々は夫婦という存在があってこそ生まれるものですよね。そこで僕は、夫婦の関係性が変わらないことを常に念頭に置き、対話を通じて2人の目線を合わせることを大切にしています。
「男性は女性の2軍である」という前提を持つ
──コピーライターである梅田さんは“内なる思いを言語化する”というスキルに優れていますが、世の中には口下手で気持ちを言葉にするのが苦手な男性もたくさんいます。そうした方たちに、夫婦のコミュニケーションを円滑にするためのコツがあれば教えてください。
まずはパートナーの話を聞くことです。仕事におけるコミュニケーションは何かしらの課題を解決することが目的ですが、妻とのコミュニケーションでは必ずしも「こうした方がいい」というアドバイスは求められません。
もし口下手なのであればなおさら、無理に自分から意見を出そうとせず、ただ話を聞くだけでも十分。パートナーの話を親身に聞いて気持ちを受け止めることを大切にしてください。僕もそうしたいと思っても、できていませんが、実際は(笑)。
──パートナーの話を聞くのが大切とはいっても、ただボーッと上の空で聞いていては効果がないでしょうね。
もちろん。聞く姿勢というのはすごく重要です。相手の話にうなづいたり相づちを打つ“アクティブ・リスニング”を意識して、パートナーが気持ちよく話せる雰囲気を作ってみてください。
──前回のインタビューで家事分担を重要なテーマと考えていると話していましたが、家事分担がうまくいかず、また頑張っているのになかなか認められず悩んでいる男性に何かアドバイスがあればお願いします。
どんなに男性が家事育児を頑張ったとしても、料理や洗濯のスキルは女性と渡り合うのは難しい。つまり、家事育児において「男性は女性の2軍である」という前提が必要です。
2軍選手は1軍選手にはかないません。でも、“マイナスをゼロにする家事”のような形で1軍選手をフォローしたり、1軍選手に何かあった際にいつでもバックアップできるようスキルを磨いておくなど、2軍選手なりのやるべき役割があります。そうした前提を受け入れた上で家事育児に臨めば「こんなに頑張っているのに…」と落ち込むこともなくなりますよ。
──パートナーに実力的にどうしても追いつかない部分がある場合は、まずはその現状を受け入れて、そこから何ができるかを考えるということですね。ところで梅田さんは、ご自身の家庭との向き合い方に価値観が近いなと共感する著名人はいますか?
宮藤官九郎さんの『俺だって子供だ!』という本を読んだことがあるのですが、そこに書かれていた子どもとの向き合い方には大いに共感しました。
宮藤さんは子どものことを“小さな大人”として認めつつ、また自分のことを“まだ子どもから抜け出せていない大人”だと受け入れ、それぞれが同じ立場で接するよう心がけている様子が垣間見れます。一人の人間として子どもの尊厳を認めつつ、自分がまだ至らない存在であることも認識できれば、真の意味での対等な親子関係を築くことができるのではないでしょうか。
──では最後に、梅田さんの家庭生活における今後の目標や、世の中のパパたちにメッセージがあればお聞かせください。
「家事や子育ては質より量」というのが僕の持論です。家事育児でも、仕事でも、“質”を高めるには、まずは経験値としての圧倒的な“量”を確保することが重要です。そのために今後も、仕事に費やす時間を最適にコントロールすることで“仕事の質”を高め、一方で子どもと接する時間や家事を行う時間の“量”を増やしていきたいですね。
「仕事が忙しくて家族と過ごせる時間が短いので、一緒にいられる時間を濃密にしたい」という声を聞きますが、僕から言わせると発想が逆。まずは仕事のやり方やスケジュールを見直したり、自分の時間を作りやすい業務にシフトすることで、家庭で過ごす時間を増やせるようにしてはいかがでしょうか。そうすればおのずと家族と一緒にいる時間の質も高まるはず。その先にまた、新しい仕事と家庭のちょうどいいバランスを見極めればいいのだと思います。
コピーライターの梅田さんならではの、印象的な言葉が満載のインタビューでした。今回特にハッとさせられたのは「家事や子育ては質より量」というコメント。何事においても「量より質」が優先されがちですが、確かに家事のスキルも子どもとの関係性の構築も、時間や場数を重ねずして質を高めるのは厳しいですよね。
家庭に費やす時間の“量”を確保するために、仕事を含めたライフスタイルを見直す──皆さんもこの機会に考えてみませんか。
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<インタビュー協力>
梅田悟司さん(元電通コピーライター/インクルージョン・ジャパン株式会社 取締役 コミュニ ケーション・ディレクター)
1979年生まれ。大学院在学中にレコード会社を起業し、その後電通に入社。マーケティングプランナーを経てコピーライターとなり、ジョージアの「世界は誰かの仕事でできている。」など印象に残る名コピーの数々を生み出す。2018年からインクルージョン・ジャパン株式会社の取締役、コミュニケーション・ディレクターに就任。著書にシリーズ累計30万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社・刊)など。