
「娘が一発屋ネタでいじられたら、抱きしめて一緒に泣くことしかできない」Daddy's Talk 第4回・後編 ジョイマン・高木晋哉さん(お笑い芸人)
各分野で独特の感性を発揮し目覚ましい活躍を遂げているパパたちは、どのような家庭生活を送っているのか──。そんな気になる疑問を掘り下げる「Daddy's Talk」。
今回は、かつて「ナナナナ〜」のラップネタで一世を風靡したお笑いコンビ「ジョイマン」高木晋哉さんへのインタビュー後編。2011年に誕生した娘の南奈(なな)ちゃんとの関係を中心に、高木さんの父親像に迫ります。
■インタビュー前編はこちら
最初は「ナナナ」と名付けようと思ってた
──前回のインタビューで「仕事が減ってから家にいる時間が長くなった」と語っていましたが、その頃はどのように家で過ごしていたのですか?
娘の面倒をずっと見ていましたね。特に小さい頃なんかベッタリくっついていたから「パパはずっと家にいるもの」と思っていたようで。だから、たまに仕事で家を出ることになったら泣き出してましたよ(笑)。
──普段お子さんとどのように過ごしていますか?
夏だったら虫を取ったり川遊びしたり魚を釣ったり、けっこう男の子ぽい遊びをしています。あと、普段は他愛のないおしゃべりを楽しむことが多いですかね。公園をぶらぶら散歩しながら「池に鴨がいるね」なんて話しているだけで、不思議と幸せな気持ちになれるんですよ。
──とても仲が良さそうですが、しつけなどで厳しく叱ることはありますか?
僕は怒るのが本当に苦手で、厳しく叱る役は妻に任せっきりです。そして「あんたばっかり子どもにいい顔して」って妻に怒られてます(笑)。その代わり、妻は「筆算って何だっけ?」と言うぐらい昔習ったことを思い出せないので、子どもに勉強を教える役目は僕がちゃんと担ってますよ。
──お子さんにご自身の持ちネタ「ナナナナ〜」にちなんで「南奈」と名付けたそうですが、そこは外せないこだわりだったのですか?
はい。「このネタでこれからも頑張るぞ」という決意表明を娘の名前に込めました(笑)。最初は「ナナナ」という名前にしようと思っていたんですよ。音の響きも可愛いし。でも「さすがにネタとの関係がモロすぎて周りにバレる」と妻に反対され、妥協案として「ナナ」に落ち着きました。
──命名の由来を本人に話したことはありますか?
ちゃんと話したことはないかな…。実は娘にとっては「『自分の名前から『「ナナナナ〜」』のネタが生まれた』」という認識で、ネタを披露するたびに自分の名前が呼ばれていると思っているようです。
本当の由来を突然知られるのはちょっと怖いので、大人になって一緒にお酒を飲みながらじっくり説明したいですね。
そして一世一代の舞台へ
──お子さんはパパがお笑い芸人であることを何歳から理解しましたか?
3〜4歳の頃から「テレビに出る人」とうっすら認識するようになったのですが、お笑い芸人という認識に変わったのは小学生になってから。
実は娘が小学1年生の時に、学校から「文化祭でネタを披露してほしい」と要請されたんです。正直、すごく勇気がいりましたよ。もしここでスベったら、娘が6年間「スベった芸人の娘」という負い目を背負うわけですから。
──それはある意味、一世一代の舞台ですね。結果はどうでした?
何とか盛り上がりましたよ。最後に「南奈ちゃんをよろしくお願いしまーす。ナナナナ〜」と娘を舞台に上げて紹介し、パパは凄いお笑い芸人なんだ!と誇りに感じてくれたようです。できればこのウケた印象のまま育ってほしいな。
──文化祭に出演したとのことですが、高木さんはお子さんの学校行事には積極的に参加しているのですか?
以前、娘が補助輪なしで自転車に乗れるようになった瞬間を見逃してしまい、すごく後悔したことがあるんです。子どもは毎日何かができるように成長していくのに、その瞬間に立ち会えないなんて親として恥ずかしく感じられて…。
だから、そうした成長をすべて見逃したくないという思いで、娘の行事には極力参加しています。
──ちなみに学校行事に参加すると保護者や子どもたちは高木さんのことに気づきませんか?
けっこうバレやすいようで、学校に行くと周りがザワザワしますね。運動会で僕が「ナナー!ナナー!」と大声で応援すると、周りのパパママにピクッと反応されるんですよ。あれ?応援のフリしてネタみたいに言ってない?みたいな(笑)。
でも「ネタ見せて!」なんて頼んだりイジろうとする変な人はいなくて、皆さん適度な距離感で接してくれますよ。
娘に受け継がれたお笑いのDNA
──お笑い芸人のパパだと、子どもと過ごしている時につい自分のネタを披露することはありませんか?
ウチの場合は名前が「南奈」なので、やっぱりつい「ナナナナ〜」と声を掛けたりあやすことがありますね。
──お子さんはお笑いが好きですか?
はい。「ジョイマンが好き」と言ってくれています。
でも僕らと同じようにショートネタを持ち味とする一発屋芸人を勧めてもあまり興味を示さず、ジャングルポケットやチョコレートプラネットみたいな“ちゃんとした”ネタやトーク”ができる芸人の方が好きみたいですね(笑)。ちなみにパパがお笑い芸人ということが影響しているのか、自分もお笑い芸人になりたいそうです。
──お笑いのDNAはお子さんにも受け継がれているようですね。
この前2人で自転車で出かけた時、後ろを走っていた娘が「今オナラをしたらちょっとだけ加速したよ」と言い出して、それは面白かったです(笑)。でも、笑わせようと思ってるわけではなく本気で言っていて、それがまた可愛いんですよ。
──ウケを狙わない子どもならではの無邪気なユーモアって強烈ですよね。
芸人ってどうしても面白いことを考えて言おうとする習性が染み付いてるけど、本気で変なことを言う子どもには勝てないな…と痛感しましたね。
──他にも子どもと接する中で得られた気づきはありますか?
子どもって長い時間集中できないけど、いったん集中して周りが見えないほど夢中になる姿を見ると、凄いなと尊敬しますよ。そして自分も昔はこんなふうに、邪念もなく真っすぐに「ナナナナ〜」と言ってたなと思い出させてくれます。もっと子どものように真っすぐお笑いと向き合いたいですね。
もし娘が「お前の父ちゃん一発屋だろ」とからかわれたら…
──お子さんは今年で小学2年生になりましたが、特に成長を感じることはありますか?
ウチの娘は優しいんです。今年の正月に神社へお参りした時なんかも、僕は絵馬に「今年もお笑いを健康に頑張れますように」と願い事を書いたんですが、娘の絵馬を見ると「たーちゃん(パパ)の願い事が叶いますように」と書いてあるんですよ!
──それは凄い! そんな子どもはなかなかいませんよ。
でしょ? めちゃくちゃ感動しましたよ。だから思わず「あ〜幸せだな〜」って言葉を漏らしてしまい、家族がいる幸せを噛みしめました。
──仕事が減って家にいる時間が長くなり、お子さんの面倒をずっと見ていたことによってパパとの絆が育まれた証ですね。ただ、一般的には10歳ぐらいになると子どもに自我が芽生えて反抗期に突入するので、もしかすると高木さんのお子さんも…。
え〜、怖いな。でも言われてみると…。
小1の文化祭でネタを披露してからは学校に行くと子どもたちが集まってくるようになったんですが、先日娘を病院から学校まで連れて行く途中に「学校でナナナナ〜って言わないでね。恥ずかしいから」と頼まれたんですよ。もしかしたら親子関係の曲がり角に来てるのかもしれませんね。僕はいつまでも一緒に「ナナナナ〜」ってしたいんですけど。
──反抗期にしてはちょっと早いですが、その調子だと家族の話題をテレビやSNSでネタにされると嫌がるようになるかもしれませんね。
そうやってネタにされることを笑い飛ばせる家族でいたいな。
それよりもっと気がかりなのは、小学校高学年にもなると子どもたちがお笑い界におけるジョイマンの立ち位置を理解して、周りの意地悪な子が「お前の父ちゃん一発屋だろ」なんて言い出しかねないこと。そんな時でも落ち込まず、明るく返せる子に育ってほしいですね。
──もしそういう意地悪なことを言われてお子さんが落ち込んだら、どうやってをフォローしますか?
う〜ん…娘を抱きしめて一緒に泣くしかできないかな(笑)。事実は事実として受け入れて「頑張ろう」って。
でもさっき話したように、自分がお笑いのネタにされることを平気でいられたら、たとえ周りに意地悪なことを言われても明るく返せるようになると思いますよ。だから逆に、僕がもっと家族のことをネタにしていった方がいいのかもしれませんね。
──これからの子育てにおける目標や心がけたいことはありますか?
娘にはとにかくこのまま真っすぐ明るく成長してほしいし、僕も長生きしてその成長をずっと見守っていきたいですね。あと、僕の親が分からないことを先回りして教えるような人で、ありがたいけど凄く嫌だったんですよ。だから逆に、自分の子どもに対しては先回りしないようにしたいと思っています。
──父親だからこそ娘にできることは何があると思いますか?
今は僕の影響でけっこう外遊びが好きなので、これからもそうした遊びを通じて、ゲームやスマホの世界ではなく「地球で生きてるんだよ」ということを理解してくれるといいな。そして「父親だから娘だから」と区別するのではなく、親子で一緒の目線で成長していきたいですね。
子どもの成長を見逃したくないと熱く語り、また一発屋芸人の娘が直面するかもしれない苦難について悩み迷うなど、高木さんのお子さんへの愛情がひしひしと伝わりました。
真っすぐな心を持つお子さんのように、子どもと真っすぐに向き合う高木さんの姿は、親ならば誰もが共感させられるのではないでしょうか。
▼Daddy's Talk 過去の記事はこちら
<インタビュー協力>
高木晋哉さん(ジョイマン/お笑い芸人)
早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷和志と「ジョイマン」を結成。2008年ごろからテレビへの出演が増え、韻を踏んだナンセンスなラップネタで一世を風靡する。詩を書くことが趣味で、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となり詩集『ななな』(晩聲社・刊)も出版。2018年には解散を懸けた15周年記念単独ライブ「ここにいるよ。」を開催し、見事チケットを完売。