
“イクメン力”全国1位は島根!? 積水ハウスと専門家たちが日本の育休の現状・未来を考える「イクメンフォーラム2019」レポート
男性の家事育児参画意識が近年高まっている一方、2018年度の男性の育休取得率は6.16%。過去最高となったものの、「2020年までには13%に引き上げる」という政府の目標にはまだ遠く及びません。
これだけ社会で育休についての関心や議論が高まっている中でこの取得率ということは、もはや当事者であるパパたちの意識改革や努力だけでなく、彼らが働く企業側の後押しも必要なのではないでしょうか?
家menではこれまで、そうしたモデルケースとなりうる育休推進企業を取材してきました。
その1社である積水ハウスでは、3歳未満の子を持つ男性社員が1カ月以上の育休を有休扱いで取得する「イクメン休業」制度を2018年9月から運用。そして開始から1年を経過した2019年8月末時点で、対象者253名の100%完全取得を達成しました。
■積水ハウスの「イクメン休業」制度取り組みについてはこちら
そして「男性の育休取得をより良い社会づくりのきっかけにしたい」という思いから、9月19日を「育休を考える日」と記念日制定し、記念日当日に「イクメンフォーラム2019」を開催しました。
産官学の有識者たちが集まって「男性の育休取得の現状や未来」についてさまざまな意見が交わされたフォーラムの模様を、家men編集部がレポートします。
「イクメン休業」制度を運用する中で企業側が実感した効果
まずは主催者挨拶として、「イクメン休業」制度を発案した積水ハウス代表取締役社長・仲井嘉浩氏が登壇。
制度の概要や育休取得実績を報告した仲井社長は、会場に流された育休取得社員のインタビュー動画を見終えるや「いい家族ですね」と満面の笑み。『「わが家」を世界一幸せな場所にする』という積水ハウスグループのビジョン達成への確かな手ごたえを感じている様子でした。
制度の手続き面で特に興味深かったのが、育休の取得時期やパパママの役割を家庭でじっくり話し合うための計画書「家族ミーティングシート」と、対象社員が取得予定や休業中の引き継ぎ内容を上長に報告するために作成する「イクメン休業取得計画書」。
家庭と職場の両面で男性社員の育休取得を円滑に推進する、よく配慮されたサポートだと感心させられました。
こうした制度を1年間運用してきた中で実感した効果として、仲井社長は「上司や周囲とのコミュニケーションが深まる」「男性の女性育休取得に対する理解が深まる」という2点をピックアップ。
男性社員の育休取得は、当事者のみならず会社にとっても多大なメリットがあることを強調していました。
全国の“イクメン力”をランキング!育休取得推進の課題も浮き彫りにした「イクメン白書2019」
今回のフォーラムにおける報告事項のもう1つの大きな目玉。それは、積水ハウスによる「日本全国47都道府県の育休実態」の調査結果を集計しまとめあげた「イクメン白書2019」。
小学生以下の子を持つ20~50代のパパママ9400人を対象にした調査で、フォーラムに参加した有識者からも「子育て家庭の実態がしっかり反映されている」という感想も。
調査では「配偶者にヒアリングした夫の家事育児時間」「配偶者による夫への評価」「夫の育休取得経験」「家事育児参加による夫自身の幸福感」という独自の4指標を設定し、その結果から算出されたのが全国47都道府県の「イクメン力」ランキング。
西日本エリアが上位を占める中、1位に輝いたのは島根県! 235点満点中205点と全国で唯一200点超えをマーク。
マーケティングリサーチの専門家・木原誠太郎氏はこの結果を「島根県は、育児をしている女性の有業率が全国トップ。仕事も家庭もバリバリこなすエネルギッシュな女性が多い一方、男性は“仕事は慎重にゆっくりコツコツ”“周りの空気を読む”という落ち着きと協調性のあるタイプが多い、という県民性も影響していると考えられます」と分析していました。
※ちなみに島根県男性の家事育児時間は全国平均の約1.6倍で、育児先進国フランスと同水準なのだとか!
他にも家事育児に対する意識や実態が公開されていく中、今回のフォーラムの趣旨に沿ったものとして「育休取得の実態」もクローズアップ。
男性の育休制度について男女とも8割以上が賛成を示す一方、実際に育休を取得したいと考える男性は60.5%。夫に育休を取得させたいと考える女性は49.1%と、いずれも数値が低下していました。
こうしたギャップを解消し男性の育休取得を促進するために白書が導き出した答えは、「給料の維持」「仕事の調整」「職場の理解」といった、男性が育休取得にあたって不安を感じるポイントを企業自ら改善すること。
本人の意欲や努力だけではカバーできない面を周囲がサポートしてこそ、「男性の育休取得が当たり前の社会」の実現へ一歩近づけることを改めて実感させられました。
■「イクメン白書2019」詳細はこちら
https://www.sekisuihouse.co.jp/ikukyu/research.html
男性の育休取得推進に必要なもの、そして将来的な効果とは
その後「育休を考える日」制定セレモニーを経て、男性の育休をテーマにしたパネルディスカッションへ。
いち早く男性の働き方改革・育休取得を提唱してきたNPO法人ファザーリング・ジャパンの代表理事・安藤哲也氏をモデレーターに迎え、尾田進氏(厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課長)、高村静氏(中央大学ビジネススクール 大学院戦略経営研究科准教授)、伊藤みどり氏(積水ハウス株式会社執行役員 ダイバーシティ推進部長)がパネラーとして登壇しました。
「イクメン休業」制度の制度化に奔走した伊藤氏は、当初は「営業の主戦力が抜けてしまう」ことを理由に支店からの抵抗感が強かったことを告白。「それでも社内でうまく仕事が回る形を見つけ、顧客に打ち合わせ時間の調整などで協力していただくことも。その結果、売上も前年度比プラスを計上しました」。
このエピソードに対して高村氏は「店長クラスが育休でいなくなったら売上が落ちるし、男性社員が育休を取るなんて顧客の理解を得られない──。こうした固定概念がただの思い込みであることが積水ハウスの事例でよく分かりました」と率直な感想をコメント。
さらに安藤氏は「男性が育休を取りやすい風土を作るには、リーダーが育休への理解を示し、また自ら率先して育休を取得することでモデルを示すことが必要。こうしたイクボスが増えれば社会はもっと変わるはずです」と持論を展開しました。
また、男性の育休取得を推進する効果について、高村氏は「男性が積極的に家事育児に参加すれば、夫婦間で共通の幸福が育まれ絆がいっそう深まるはず。さらに男性自身も子育てを通じて人間的に成長し、仕事以外にも多くの成長軸が生まれていくことも期待できます」と解説。
続いて尾田氏が「今年から労働基準法が改正され時間外労働の上限が課されましたが、それに伴う働き方の見直しと男性の育休取得は両輪の役割を果たしていくことでしょう」という相乗効果に期待を寄せれば、安藤氏も「男性が育休など家を優先して会社を休むのが当たり前になれば、それは2025年に迎える大介護時代に向けて格好のトレーニングになるのではないでしょうか」とさらなる展望を見すえていました。
育休取得は当事者だけのメリットではなく、企業にとって、そして社会全体にとってプラスの効果が表れる。そうした未来を確かに予感することができるフォーラムでした。
男性の育休取得推進に積極的な“キッズ・ファースト企業”積水ハウスの取り組み、そして現代の子育て事情をリアルに反映した「イクメン白書2019」が、社会の変革や多くの気づきへとつながることでしょう。