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完璧な夫やイクメンじゃなくていい Vol.1 | 男性学・田中俊之先生

今からできる“男の生きづらさ”解消のススメ

今、世間では“ワークライフバランス”が提唱され、男性に「家族で過ごす時間を増やそう」「もっと家事育児に参加しよう」と盛んに呼びかけています。でもこの風潮に対して、ちょっとしんどさやプレッシャーを感じたことはありませんか?


そんな男性たちが漠然と抱える“生きづらさ”を解消できるヒントを得ようと、男性学の第一人者として活躍する大正大学准教授の田中俊之先生にお話を聞いてきました。


厳しい現実から“目をそらす”ことで応急処置

─まず、男性学という言葉を初めて聞く読者もいると思うので、男性学がどういう学問なのか教えてください。

1960年代にアメリカで誕生した「women's studies」という学問を、社会学者の井上輝子先生が「女性学」と訳し、女性を考察の対象とし女性に役立てる学問として日本に持ち込まれました。女性学を通じて男性も社会の女性差別について考えるようになったのですが、とはいえ男性も自分たちの問題を考えていく必要がある。


そこで、「男女平等」「性別にとらわれない生き方」など共通の課題を共有する形で、男性を考察の対象とする男性学が1980年代後半に成立しました。つまり、女性学の研究を経て、その成果を活かす形で誕生したのが男性学というわけです。


─会社と家庭の狭間で悩みを抱える男性も多いですが、そのしんどさ、生きづらさはどうすれば解消できるのでしょうか?

男性が仕事と家事育児の両立に悩むことを、最近はイクメンブルーと呼んでいますね。日本でイクメンについて議論される際に問題だと思うのは、常に「どうあるべきか」という論調に陥りがちなこと。「どうして父親は家事育児に参加できないのか」という課題をとばして「父親も家事育児に参加すべきだ」と主張するから、いろいろな矛盾が生じるわけです。


これまでの日本社会は「仕事は男性、家事育児は女性」というように性別役割分業が前提だったから、フルタイム勤務の男性がいざ家事や育児に参加しようと思ってもなかなか難しい。ということは、個人の意識や努力だけで何とかするのではなく、まずは会社の働く仕組みや社会全体の構造から変えていく必要があるわけです。


─社会の仕組みが変わるには、相当な時間がかかります。それを待つ間、今そこにある生きづらさに耐えなければならないのは厳しいですね。

そうなんです。風邪をひいた時に症状を抑える風邪薬が必要なように、生きづらさという痛みにも、今すぐ止められる対処療法が必要です。そうでなければ長期的に頑張れませんから。


─どのような方法があるのでしょうか?

辛い現実から適度に目をそらしていくことが、短期的には有効な手段です。例えば、友だちを作るとか、趣味を持つとか、洋服を買うとか。以前インタビューしたある父親は、仕事帰りに吉野家で牛皿を食べながら一杯飲むのが好きだと言っていました。時にはそうやって目をそらさないと、今の現実は厳しすぎます。


─家族から「飲んでいる時間があったら早く帰って家事を手伝って」と怒られそうですね。

そこで怒ると、夫婦がお互いの首を絞め合うことになります。相手の自由を制限しても決して自分が楽になるわけではないので、やめた方がいい。夫が30分自由に飲むなら、妻にも30分自由な時間を作れるようにお互いが工夫したほうがいいじゃないですか。毎日が仕事と会社の往復だけだとあまりにもしんどいから、どこかで寄り道しないとパンクしてしまいますよ。



夫婦のすれ違いを解消するには?

─そうした夫婦間のイライラや衝突は、男女の価値観の違いが原因なのでしょうか?

夫婦が衝突する原因を、例えば「男は〇〇だから」「女は□□だから」というように男と女の違いで単純に分類してしまうと、いたずらに対立を強めるだけで何の解決にもなりません。男と女だから違うのではなく、個人と個人だからお互いの考え方が違うのです。まずは多様性を認め、個性と個性のすれ違いに目を向けてコミュニケーションをとった方がいいと思います。


─夫婦がお互いを一人の人間として意識すべきということですね。

自分が伝えたいことを言葉で相手に100%伝えるなんて不可能。夫婦がうまくコミュニケーションを取れないのは当たり前なのに、感情的に納得がいかないまま、合理的にすれ違いを対処しようと無理するから衝突が生じるわけです。「こうすれば効率的に意思疎通できる」というマニュアルに頼らず、コミュニケーションに完全はないことを認めた上で、お互いに歩み寄っていくのがいいのではないでしょうか。


─完璧なコミュニケーションを求めず、飾らず本音をさらけ出していけばいいのでしょうか?

コミュニケーションにおいて感情というのは、ある程度抑制する必要があります。ある家庭で、家事育児のタスク表を使って夫婦間の家事や育児を見える化しようとしたら「この役割は普段俺がやっている」「あれでちゃんとやっていると思っていたの?」と本音をぶつけ合うケンカになったそうで、見える化なんてやらなきゃよかったとボヤいてました。本音を言えば何でも解決するかというと決してそんなことはないので、建前や自制も時には大事だと思います。


─家事育児のシェアも夫婦の争いの種ですね。

中国では祖父母など家族ぐるみで子育てをし、アメリカでは移民の母親たちにベビーシッターを頼む風土があります。日本にはどちらの慣習もありませんが、例えば皿洗いや部屋掃除を電化製品に任せるなど、もっと自分たち以外の力に頼っていいと思います。シェアする、役割分担するという発想ではなく、なくしてしまうという考え方も大事です。互いに役割を押しつけ合ってもらちが明かないですから。


─納得できる妥協点を夫婦で探ることは大事ですね。

コミュニケーションの積み重ねが重要です。以前、電車で一言もしゃべらない老夫婦に出会いました。すると終点間際でおじいさんがおばあさんに一言「寒くない?」と聞き、おばあさんも「寒くないよ」と一言だけ答え、またしゃべらなくなりました。長年連れ添って信頼を積み重ねてきた夫婦だから、言葉にしなくてもお互いを気にかけていることが分かっていて、会話がなくても気まずくならないんです。


逆に若い夫婦はコミュニケーションの積み重ねがないから沈黙が怖く、多弁になりがち。長い時間をかけてコミュニケーションと信頼を積み重ねることで、相手の気持ちを汲み取ることができる成熟した夫婦関係が生まれるのではないでしょうか。


ー次回は、生きづらさを感じさせる根本的な原因に男性学の視点から迫ります  Vol.2につづくー


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田中俊之(大正大学心理社会学部准教授)

1975年東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授。
専門は主に社会学、男性学、キャリア教育論。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会、東京都渋谷区の男女平等・多様性社会推進会議の委員を務める。著書には『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社+α新書)『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』(祥伝社新書)など。

家men編集部

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