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完璧な夫やイクメンじゃなくていい Vol.2 | 男性学・田中俊之先生

“生きづらさ”は自分のせいじゃない


前回のインタビューで大正大学准教授の田中俊之先生に、今男性が会社や家庭で強いられている“生きづらさ”の応急処置法を教えていただきました。今回は引き続き、生きづらさを感じさせる根本的な原因に男性学の視点から迫っていきます。


現実と矛盾した生き方を迫られても…

─ところで、田中先生が男性学に興味を持ったきっかけは?

私が学生だった1990年代には、大学でジェンダー論を学べる環境が整っていて、男性学についても入門書がすでにあり体系化されていました。このように研究への関心を持ちやすい環境が揃っていたことは大きかったです。

もう1つ、就活の時期になると周りの学生がほぼ100%、同じ髪色で同じスーツを着るようになるという変化にビックリしたことも要因です。これほど男性たちに「自分たちの進む道は就職以外にない」、さらに言うと「男性は定年まで働き続けるのが当たり前」と思わせる社会の仕組みとは何なのか、研究したいと思いました。


─社会=仕事という固定観念がそうさせるのでしょうか。

はい。その考え方には非常に違和感があり「自分には無理だな」と思いました。スーツを着なくていいのが私の仕事のいいところです(笑)。


─男性学を通じて考察すると、現在の社会からどのような問題が見えてきますか?

日本では1975年に、20〜30代の子育て世代を中心に女性の労働力が最も下がりました。どういうことかと言うと、専業主婦が最も増えたということで、これは「仕事は男性、家事育児は女性」という性別役割分業の典型です。

1990年代半ばには「共働き世帯」が「専業主婦世帯」を上回ったという統計が出ましたが、実はこの結果はフルタイム勤務だけでなく、主婦が家事育児に支障のない範囲で働くパートタイムも「共働き」に含めたものです。

しかもフルタイム勤務の女性のうち、出産して育休取得後に職場へ復帰できているのはわずか4割という統計結果も出ています。また、職場に復帰できたとしても時短勤務をせざるをえません。つまりフルタイム勤務で働いている女性も、家事育児がメインの役割と考えられているわけです。


─性別役割分業は今も社会に残っているのですね。

この基本構造が変わらない一方で、女性は「もっと働いてください」と職場での活躍も迫られている。待機児童の問題が解消されないと、仕事と育児の両立は厳しいですよね。また男性も、バリバリ働いて家族を養うことが最大の役割と思われている一方、現在はイクメンとして家事・育児も求められている。長時間労働が解消されない状況でのイクメンなんて困難です。

現実問題として日本にはまだ男女の賃金格差があります。その状況で、「稼いでいる金額が妻より多い夫の労働時間を減らそう」とは考えにくいですよね。つまり、社会から発せられているメッセージと現実の間には大きな矛盾があり、男性にとっても女性にとっても非常に生きづらい状況なのです。


─現実にそぐわない理想を実現するのは難しいですよね。

問題なのは、男女問わずマジメで優秀な人ほどその矛盾したメッセージを真に受けて、自分の努力でなんとか解決しようと苦しんでいることです。その結果、特に若い女性が限界を感じてバーンアウトしてしまい、会社を辞めることが多いとよく聞きます。

社会や企業がイクメンと女性活躍を推進するのであれば、それらを成立できる土壌があるのか考えた上で、責任を持ってメッセージを発するべきですね。



仕事第一主義の考え方は変えられるか?

─会社に勤める男性の生きづらさについてはいかがでしょうか?

最近、ある男性の事例について新聞の取材を受けました。近年は育児休暇を取得するのが当たり前という風潮があるから会社に育休を申請したのに、その男性は異動・転勤させられ、メンタルを病んでしまったそうです。男性が「もっと家事育児に参加したい」という気持ちが芽生えても、それを認める企業が少ないのが実状です。また家庭にとっても、父親が1年間育児休暇を取ったら仕事のことが不安になるでしょう。


─仕事第一主義の根本的な要因は何なのでしょう?

先ほど説明した、性別役割分業の成立が大きな要因です。産業社会に転換した近代から企業が人々を雇うようになり、日本では「仕事は男性、家庭は女性」という役割で社会を回していこうとした。しかもその仕組みがうまく機能したので、それを壊すほどの別パターンの働き方が今も見つかっていない。そんな現状においては父親が働かない=家庭の崩壊なのです。


─そうした固定観念の原因となる社会の変化は期待できますか?

日本ではイクメンブルーとか言葉だけが一人歩きするばかりで、具体的な対策は詰められていません。そもそも結婚する人自体が減っている昨今において、既婚者の直面する問題というのは当事者が思っているより世間の関心は低く、社会全体で考えるべき課題とみなされていないのです。


─当事者である男性たちから、家事育児に参加しやすい環境を求めるような動きは生まれないものでしょうか?

日本の社会で男性が評価される基準というのは、今までは仕事しかありませんでした。逆に、仕事を頑張ってお金を稼いでさえいたら、後ろ指を指されないし生活にも困らない。そういう人たちに「もっと家事育児に参加しよう」と一致団結を訴えかけるのは難しいわけです。


ーでは、そんな男たちの未来とは…? Vol.3につづくー

ー 今からできる“男の生きづらさ”解消のススメ Vol.1はこちらー


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田中俊之(大正大学心理社会学部准教授)

1975年東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授。
専門は主に社会学、男性学、キャリア教育論。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会、東京都渋谷区の男女平等・多様性社会推進会議の委員を務める。著書には『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社+α新書)『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』(祥伝社新書)など。


家men編集部

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この記事は家men編集部がお届けしました!男性視点で家事や毎日がもっと楽しくなるような情報を発信していきます!

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