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ほぼ牛一頭まるごと食べつくしクッキング「ビフカツに魔法のランプ」

肉料理は最高の道楽だ。

深く探求すること自体に科学の実験のような楽しみがあり、調理時に直面した課題を解決したら、重厚な開かずの扉を開くような爽快感がある。もちろん、その先に待っているのは、とびきりおいしい一口だ。


これまでアップデートされてこなかった家庭の肉料理はもっとおいしくなる。肉料理界におけるとびきりのごちそう、牛肉を一頭まるごと食べ尽くす。このシリーズを読み込めば、店頭でどんな肉と巡り合っても大丈夫。

すべての部位を極上の一皿に変える、「ほぼ牛一頭まるごと食べ尽くしクッキング」、いよいよスタート!


肉は肉ごと、部位ごとにメニュー適性が異なる


家menをご覧のみなさま、こんにちは。松浦達也と申します。

もともとライターや編集者といった仕事をしておりましたが、さまざまな形で料理に関わるうちに、数年前『大人の肉ドリル』という肉の教科書風のレシピ本を出版することに。この本が驚くほどのご好評をいただき、以来、ずいぶんと肉関連のお仕事をいただくようになりました。


『大人の肉ドリル』松浦 達也(マガジンハウス・刊)


僕がレシピを作るときに心がけているのは、以下のようなポイントです。


1.年間数百件の食べ歩きや取材等で触れた、新しい知見や情報を盛り込む

2.論文等をベースに、明確な裏付けのある理にかなった調理法で組み立てる

3.意味のない手順や素材、調味料は見直す


一般的にレシピは数字が大切にされますが、数字はあくまで目安に過ぎません。実際の調理にあたっては室温や素材の状態によって、数字はアテにならないことも。目安としての数字も書き添えておきますが、大切なのは調理にあたってのアプローチや考え方。その柱がしっかりしていれば、条件が変わっても安定した仕上がりが得られるようになります。さて、本日のお肉はランプです。


本日のお肉~ランプ



※部位の分け方、解釈は地域・事業者によって異なる場合がございます。


「ランプ」は牛の腰とお尻の間をつなぐ部分。前側には背中から腰にかけての「サーロイン」、後ろは焼肉などでもおなじみのお尻肉「イチボ」となります。

食肉の流通ではランプとイチボはひとかたまりで「らんいち」という部位として扱われますが、ランプとイチボを比較するとランプは肉質がきめ細かく、サシがやや少なめ、あっさりとしながらも赤身肉のおいしさが存分に味わえる部位です。


肉のキメが細かく、サシ少なめのランプはビフカツに!


大タイトルの「ビフカツに魔法のランプ」はもちろん「アラジンと魔法のランプ」のオマージュ(というかダジャレ…)ですが、ランプ肉はビフカツには魔法のように適した部位です。

肉質はやわらかく、繊維のキメは細かく、スジはあまりない。赤身に適度に味が載っていて、ミディアム・レア程度を目指して揚げると、グンと味が乗ってきます。


ちなみにこの数年東京を中心に「牛カツ」が流行していますが、もともと「ビフカツ」と「牛カツ」は似て非なるもの。牛カツは東京の洋食店が考案したもので、中までは火を通っていない"タタキ"風の皿が流行っています。一方、ビフカツとは関西で長年愛されてきた洋食メニューで、内部はレア~ミディアム・レアに仕上げます。もっともレアと言っても、中心部まで熱は加えられています。


日本では刺身に象徴されるように、新鮮な"生"が珍重される傾向がありますが、本来、肉は一定の熟成をかけて出荷されるもの。好みの加減はあるにしても、ある程度温めた方が味も香りもグンと乗っておいしくなります。しかもビフカツはとんかつと違って、ぎりぎりまで火を入れずにレアでもおいしく食べられる。つまり、火を入れすぎて肉が縮んだり、固くなったりするリスクをあまり考慮せずに調理できる、家庭でもおいしく作りやすいごちそうなのです。


それでは材料と作り方です。

<材料(1人前)>

牛ランプ肉(厚さ2cm程度のステーキ肉) 150g
塩 小さじ1/2
小麦粉 大さじ1〜2
卵 1/2個分
パン粉 適量


<調味料>

胡椒、ウスターソース、とんかつソース、醤油、わさび、和がらし、柚子胡椒など 適量


<作り方まとめ>

1.牛ランプ肉はできれば室温に戻し、塩を全体にまんべんなくすり込む。卵をしっかり溶き、小麦粉、パン粉とともにそれぞれ別のバットにならしておく。


2.牛ランプ肉に5分程度塩をなじませたら、小麦粉をまんべんなくつけて余計な粉をはたいて落とす。その後卵をつけ、同じようにパン粉も全体にまんべんなくまとわせる。


3. 鍋に肉がしっかり浸かるくらいのサラダ油を入れ、中火にかけ190~200℃まで熱し、衣をつけた牛ランプ肉を入れる。30秒ほど揚げて表面が軽く色づいたら、バットや網に取り、3分休ませる。その後、もう一度30秒揚げて3分休ませたらできあがり。食べやすい大きさにカットして、つけ合わせの千切りキャベツを添え、好みの調味料でいただきます!


細かすぎるビフカツのポイント説明

1.牛ランプ肉は2cm程度の厚さのものを選ぶ。余熱でやわらかく熱を通したいので、ある程度の厚さの肉を選ぶ。

※肉が薄いとあっという間に芯まで火が通ってしまう。


2.肉に塩をすり込んでなじませる。

※塩をあらかじめすり込むことで、調理後の調味料との味なじみがよくなる。胡椒には柑橘の香りのするリモネンという揮発性の成分が含まれている。胡椒は高温で加熱するとこの成分が飛んでしまう上に、苦みが強くなる。胡椒は調理後に皿の上などでかけるのがおすすめ。


3.牛ランプ肉に小麦粉をまんべんなくつけてはたいて落とし、卵を全体に薄くまとわせる。パン粉も肉全体に手で押しつけるようにつける。

※衣ははがれ防止のためにも全体にきっちりつけるのが大切。加熱時には熱の緩衝材に、休ませるときには蓄熱材になります。ていねいに行うなら、卵は漉して小麦粉もふるいにかけておく。


4.鍋に肉がしっかり浸かる程度のサラダ油を入れ、中火にかけ190~200℃まで熱する。衣をつけた牛ランプ肉を入れて30秒揚げたら揚げバットなどに取り、3分休ませる。

※休ませているときには衣が熱源になるので、全体から均一に熱が入るよう、揚げ油はたっぷり使う。1度目の揚げは衣が安定するまで(約20秒)カツには触れないので、カツ同士が重ならないような分量ずつ揚げていく。休ませている間に、揚げ油の揚げカスはすくっておく。


5. 4.の休ませた肉を再度30秒揚げてバットや網に取り、3分休ませる。食べやすい大きさにカットして、好みの調味料とつけ合わせの千切りキャベツを添えて食べる。

※2cmの牛ランプ肉が基準なので、薄い肉の場合は1度揚げ。厚い肉の場合は揚げ時間や回数、休ませる時間などを増やして調整する。千切りキャベツは1枚ずつはがして折りたたんで切る。さらにビニール袋に入れて、軽くもむとふんわり盛ることができるだけでなく、キャベツの甘味がきわ立つ。盛り付け時にはセンター付近の肉の断面を上に向けておくと見栄えがいい。


ちなみに1ポイント

たっぷりソースをつけて食パンに挟むだけで、おもてなし用のビフカツサンドに早変わり。ビフカツの場合、なめらかな食感を活かしたいのでキャベツなどは挟まなくていい。


文・松浦達也 写真・落合星文




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松浦達也(フードアクティビスト)

松浦達也(フードアクティビスト)

東京都武蔵野市生まれ。ライター、編集者、フードアクティビスト。食専門誌から新聞、雑誌、Webまで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論」をテーマに幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでも食トレンドやニュースを解説するほか、経営者や政治家、アーティストの書籍企画や構成を手がけたコンテンツも多数。著書の『大人の肉ドリル』は"肉のバイブル"とも言われ、『新しい卵ドリル』とともに広く絶賛される。調理師免許持ちの日本バーベキュー協会公認バーベキュー上級インストラクター。マンガ大賞選考員でもある。

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