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ほぼ牛一頭まるごと食べつくしクッキング「挽いて叩けば、スネはかじれる!」~すね肉のハンバーグ~

肉料理は最高の道楽だ。


調理の探求には科学の実験のような楽しみがあり、課題を解決したら、重い開かずの扉を開くような爽快感がある。その先に待っているのは、とびきりおいしい一口だ。


家庭の肉料理はもっとおいしくなる。このシリーズを読み込めば、店頭でどんな肉と巡り合っても大丈夫。すべての部位を極上の一皿に変える「ほぼ牛一頭まるごと食べ尽くしクッキング」、今回もスタートです!


「煮込みだけだと思うなよ!」(byスネ肉)


家menをご覧のみなさま、こんにちは。いつも『大人の肉ドリル』がたいへんお世話になっております。松浦達也でございます。


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『大人の肉ドリル』松浦 達也(マガジンハウス・刊)


1.大量の食べ歩きや取材等で触れた新しい知見や情報を盛り込む。

2.裏付けのある理にかなった調理法で組み立てる。

3.意味のない手順や素材、調味料は見直す。


という、いつもどおりのスタンスで進めていく「ほぼ牛一頭まるごと食べ尽くしクッキング」。さて、本日のお肉はなかなか使いどころが難しいスネ肉&ネックです。


本日のお肉~スネ肉

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※部位の分け方、解釈は地域・事業者によって異なる場合がございます。


運動量が多く、小さな筋肉が集まっている上に筋繊維の量に比して筋膜の量が多いこともあって食感が硬いとされる部位。


筋膜や腱といったコラーゲンを多く含む「結合織」は80℃で組織がゼラチン化し始めるが、かたまりのままでは一定の時間がかかる(煮込み料理によく使われるのは、コラーゲンを柔らかくするのに80℃以上で一定の加熱時間が必要なため)。


結合織を細かく切ったりひき肉状に加工すれば、ハンバーグなどの料理への適性も高い


栄養価は肩肉やリブロースと比較するとタンパク質や鉄分が多く、脂質はカタの1/3、リブロースの1/5以下


地味に滋味あふれる「スネ肉」


正直に申し上げると、個人的には「スネ」や「ネック」といった部位について、あまり人気になってほしくありません。というのも、おいしいから。スネやネックは筋肉質で肉の味が濃く、コラーゲンの多い部位ならではの独特の風味もあります


昔はその味わいがバレていなかったからか、精肉店やスーパーの店頭でも安く売られているのを見かけましたが、最近では牛肉価格の高騰などもあって多少値ごろ感が薄れた印象もあります。それでもその味わいに比べれば、まだまだお買い得な肉と言えるでしょう。


スネが「硬い」と言われるのは、そもそもの筋肉がしっかりしている上、細かい筋膜やスジが入っているから。前回のサーロインの回でも書きましたが、こうした組織にはペプチドや独特のアミノ酸が含まれて濃厚なコクと旨味があると言われています。


旨味は十分。そして硬さは細かく挽いたりカットすれば解決できる。ではここからは、どうやってひき肉料理の骨格を作っていくかというステージに入ります。


本来、ひき肉に"つなぎ"は不要


ひき肉料理最大の課題は「結着」です。


細かく挽かれ、カットされた肉同士をいかに一体化させるか。そこでカギになるアイテムが「塩」。


肉の筋肉タンパク質において最大の比率を占める筋原繊維タンパク質は塩を加えることで変性します。ひき肉に塩を加え、低温を保ったまま摩擦を加えると、肉の組織がよりしっかりと結びつく。卵やパン粉がなくても、肉のたんぱく質自体に”つなぎ”の機能はあるのです。


「つなぎ」の名目で卵やパン粉、牛乳などを加えるのはあくまで日本式。むしろパン粉や牛乳は肉同士の結着をゆるめたり、なんとなく肉同士をつないだような気分にさせたりするためのもの。


男のハンバーグたるもの「結着は塩+肉のみ!」という潔さに一度チャレンジしていただき、肉の結着力というものを実感していただけると、今後つなぎに何を入れるか指針のようなものができるかもしれません。


というわけで、本日は弾力あふれる「男の超ワイルドハンバーグ」にトライしていただこうと思います。


さて本日のポイントです。

・肉と塩だけで結着させる

・肉だけだと味が単調になるので、味と食感のアクセントのため玉ねぎは入れる

・卵、牛乳、パン粉は入れない

・その分ソースはわかりやすい旨味に


<材料(1人前)>

牛スネ肉 200~300g

塩 2~3g(スネ肉の1%)

黒胡椒・ナツメグ 適量

玉ねぎ(中) 1/2個

サラダ油 小さじ1

つけあわせ野菜 適宜


<ソース>

玉ねぎ(中) 1個

にんにく 1かけ

太白胡麻油 大さじ4

米酢 大さじ4

醤油 大さじ3

煮切りみりん(はちみつでも可) 大さじ2

塩 小さじ1


<作り方まとめ>

1.玉ねぎ(中)1/2個をみじん切りにして、小さじ1のサラダ油で炒める。バットに取り、冷蔵庫で冷やしておく。ソースを作る。玉ねぎとにんにくをすりおろして、他の材料を全部合わせて混ぜるか、材料すべてをフードプロセッサーで混ぜておく。

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2.牛すね肉は薄くスライスしたものを重ねて細切りにしたものを重ねて、みじん切り状にする。その後、繊維を断ち切るようにさらに細かく切る。

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3. すね肉の1%の塩、スパイスを加え、肉が冷たいうちに木べらで練る。肉がずしりと重くなったら全体が均質な質感に見えるようになるまでもうひと練りする。

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4. 冷やしておいた玉ねぎを加え、全体をしっかり混ぜた後、円盤型に成型する。

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5. フライパンを弱火にかけ、片面5分を目安にじっくり焼く。

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6. ハンバーグを取り出し、残った肉汁にソースを入れて中火にかけ、ひと煮立ちさせる。

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細かすぎる超ワイルドハンバーグのポイント説明

1. 玉ねぎは縦に細かく切り目を入れる

玉ねぎをみじん切りにする際、縦に切り目を入れておけば、(家庭科で習ったように)下部に横の切り目を入れなくてもいい。

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2. 肉切りの最終工程では叩くように切る

この次の工程で塩が肉のタンパク質を溶かし、そのタンパク質同士が結びつくことで肉は強く結着する。肉表面の面積が少しでも多くなるよう、肉切りの最終局面では叩くように切る。

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3. 1%には味つけ以外の理由がある

味つけで「肉の●%」という塩分量の調整をすることがあるが、味つけよりも肉の結着のほうが塩分量はシビア。多すぎると塩辛くなるが、少ないと結着が弱くなる。結着のことだけ考えるなら1.5%程度の塩を入れたいところだが、つなぎを使わない超ワイルドハンバーグだと塩辛くなってしまう。入れるものによって塩加減を変えていく。

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4. 炒め玉ねぎを冷やす理由

炒めるときの油を最小限にしたり、炒めた玉ねぎを冷蔵庫に入れるのは「肉が傷まないように」という理由ではない。こうした手順を踏む理由は、肉の結着がほどけないようにするため。油と温度の上昇は肉の結着を妨げてしまう。

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5. 焼きは弱火でじっくり

牛肉とはいえ、ハンバーグのように一度切った肉の断面が内側に入り込んでいるような料理には、食中毒予防のためにもきちんと火を通す必要がある。一枚肉のきちんとしたステーキならレアで構わないが、ハンバーグや成型肉はきちんと中まで火を通さなければならない。

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6. 野菜ソースを加熱しながら肉汁を残さずさらう

玉ねぎやにんにくなどは、生だと辛味が先に立つ。特にソースにするときには、一度きちんと火を通したい。その際、フライパンに残った肉汁や焼き目などの旨味のもとを残さずソースでこそぐ。中火でソースを焼く意識でメイラード反応を加速させ、ソースの旨味をふくらませる。

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ちなみに1ポイント

よくステーキ店や肉料理店でシェフが砥ぎ棒を使って、包丁を研ぐような光景を見かけますが、実は包丁自体を研ぐというより、刃についた脂を落とすための作業なのです。

肉を大量に切り続けると包丁の刃に脂がまわり、切れ味が鈍くなりやすい。家庭では研ぎ棒を使わずとも、「切れ味が悪いな」と思ったら台所用洗剤で洗って拭けば切れ味は甦ります。もちろん普段からある程度メンテナンスしておくことは大前提ですが。

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文・松浦達也 写真・落合星文


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松浦達也(フードアクティビスト)

松浦達也(フードアクティビスト)

東京都武蔵野市生まれ。ライター、編集者、フードアクティビスト。食専門誌から新聞、雑誌、Webまで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論」をテーマに幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでも食トレンドやニュースを解説するほか、経営者や政治家、アーティストの書籍企画や構成を手がけたコンテンツも多数。著書の『大人の肉ドリル』は"肉のバイブル"とも言われ、『新しい卵ドリル』とともに広く絶賛される。調理師免許持ちの日本バーベキュー協会公認バーベキュー上級インストラクター。マンガ大賞選考員でもある。

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