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ほぼ牛一頭まるごと食べつくしクッキング「塊肉、どうしよう! 塊肉、こうしよう!」~男の憧れ、ローストビーフ~

肉料理は最高の道楽だ。


調理の探求には科学の実験のような楽しみがあり、課題を解決したら、重い開かずの扉を開くような爽快感がある。その先に待っているのは、とびきりおいしい一口だ。


家庭の肉料理はもっとおいしくなる。このシリーズを読み込めば、店頭でどんな肉と巡り合っても大丈夫。すべての部位を極上の一皿に変える「ほぼ牛一頭まるごと食べ尽くしクッキング」、今回もスタートです!


「塊肉を焼く!」


家menをご覧のみなさま、こんにちは。いつも『大人の肉ドリル』がたいへんお世話になっております。松浦達也でございます。



『大人の肉ドリル』松浦 達也(マガジンハウス・刊)


1.大量の食べ歩きや取材等で触れた新しい知見や情報を盛り込む。

2.裏付けのある理にかなった調理法で組み立てる。

3.意味のない手順や素材、調味料は見直す。


というスタンスに基づいて、今回はいよいよ塊肉。

そう、パーティ料理の花形でもあるローストビーフです!


伝統的なローストビーフは、香味野菜を天板に敷いた上に牛肉を置いてオーブンで焼くもの。しかしオーブンがなければ作れませんし、断面が均一なロゼ色になるような火入れは難しいレシピでもあります。


最近ではフライパンで焼くレシピもずいぶんと増えました。ただしこちらにも難点はあって、アルミホイルで包むようなレシピだと、蒸れたような香りが肉に残ってしまうことも。

以前の「ステーキ」の回でも紹介したように「休ませる」のは肉焼きには欠かせない工程です。オーブン・フライパン問わず、ローストビーフとなれば欠かせない工程ですが、どう休ませるかによって肉への火の入り方は変わります。


肉焼きにおいて「焼き」と「休ませ」はこまめにに行うほど内部の火入れは均一になります。「30分焼いて、同じ時間休ませる」ようなトラディショナルなオーブンレシピの場合、外側に近い部分はしっかり火が入り、中心の方は火が入りにくい。このバランスをどう取るかが最大の課題です。


加えて、フライパンの場合は香り付けをどうするか、という課題も残されています。通常のオーブンであれば玉ねぎ、にんじん、セロリといった香味野菜を寝床代わりに肉を乗せますが、どのように香味野菜の香りを付与していくか。


「火入れ」と「香りづけ」。今回はこの2点を最重要項目として進めていきましょう。


さて本日のお肉。今回も複数の部位を挙げておきます。


本日のお肉~ウチモモ、肩ロース、ランプ、イチボ、サーロイン、リブロース

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※部位の分け方、解釈は地域・事業者によって異なる場合がございます。


本来は「ロースト」を語源に持つ「ロース」部位、つまりリブロース、サーロインがベストだが、多少のスジはあるものの濃厚で力強い味わいの「肩ロース」の適性も高い。またやわらかく味の乗りもいいランプやシュラスコに使うイチボなど背中側の肉は全般的にローストビーフに向く。モモはウチモモならOK。

海外では「ラウンドステーキ」にしたり、国内でもローストビーフ用として販売される部位。スーパーや精肉店などで「モモ」とだけ書かれている場合は、店員にウチモモかソトモモかを確認し、ソトモモは煮込みや薄く切った調理などに活用したい。


焼きと休ませのベストバランスを探そう


「ローストビーフ」である以上、何はともあれロースト――焼きが重要です。ただしオーブンレシピとの最大の違いは、熱源がフライパンからの「熱伝導」になること。要は、肉が触れた鍋肌から接する肉の表面に伝わり、肉表面の熱がじわじわと内側に伝わっていく。


オーブンでの加熱は「輻射」「(空気の)対流」が主であり、肉には比較的やわらかく熱が伝わります。例え250℃や300℃に設定したオーブンに肉を入れても、高温で一瞬で焦げるということはありません。

対してフライパンを250℃や300℃に熱して、熱伝導で肉を焼こうとすると表面はあっという間に焼き目(焦げ目)がつきます。


肉の焼き目はざっくり言うと、温度×時間の積算で決まります。一瞬で焼き目がつかない程度の温度でも長時間熱すれば焼き目はつきますし、高温なら短時間でも焼き目がつきます。ただしフライパンの場合、高温で焼き続けると、内部まで火が入る前に表面が焦げてしまう。

そこで中高温で表面に焼き目をつけ、休ませる間に内部に熱を通すわけです


肉の表面に均等な焼き目をつけるにはフライパン上の温度がムラなく肉に伝わっていることが必要です。今回その媒介となるのが油。多めの油を入れて揚げ焼きのように熱を加えることで、多少の肉の凹凸をものともしない一面の深い焼き目を目指すのです。


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油は熱や酸化に強い太白胡麻油か、肉の味を一段引き上げてくれる澄ましバターがおすすめ。すましバターは普通のバターを温めて、泡となった固形分を除いたもの十分です。ただし、泡を除くまでは焦がしてはならないので、火加減は中弱火で。


もうひとつ、フライパンローストビーフにおいて避けては通れないのが「中火か、強火か」問題です

大きい肉ほど、蓄熱する熱源としての肉表面の役割が重要になります。500g以上の肉の場合は中火で転がしながら、じわじわと表面に焼き色をつけていく。肉のサイズがそれ以下のステーキサイズの場合、強火で表面に焼き目をつけながら内部温度を見極めていきましょう。


内部温度の計り方の目安は、以前「ステーキ」の回で弾力を目安にする方法を紹介していますが、肉に厚みのあるローストビーフの場合、より内部温度を正確に把握しておきたいところ。肉の温度を計ることができる芯温計の入手を強くおすすめします


■デルタトラック 中心温度計

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一般に手に入りやすいのは、実勢価格1000円以下で販売されているリーズナブルなものですが、僕のおすすめはアメリカの計測器メーカー、DeltaTRAKのもの


プローブ(串の部分)先端の径が金串のように細い。一般的な芯温計はプローブの径が太く、肉に太い穴がポッカリ…という事態が往々にして起きますが、何より反応速度が廉価な芯温計に比べて段違いに早い。肉に刺すと2秒程度で表示温度が安定します(廉価なものは10秒程度待たないと表示温度が安定しない)。


価格もAmazon.co.jpで4000円台と十分手が届く範囲。防滴性を備えているのもキッチンまわりにうってつけ。これから「肉を焼くぞ!」という方は、ぜひ一本入手してみてください。


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ステーキとの香りの違い


ステーキとローストビーフの違いには、肉がまとう香味野菜の香り。


肉料理につきものの獣肉くささをどう処理するかは、焼き上がりにソースや山わさびなどとつけて食べるステーキの場合は、にんにくだけでも十分でしたが、ローストビーフとなるとやはり香味野菜の力も借りたいもの

ただしセロリやにんじんのような香味野菜はフライパン上の面積をも専有してしまいます。


ここは牛肉定番アイテムの力を借りるところからスタートしましょう。


にんにく、それにローズマリーやタイムなどのハーブ類。極端に言えばにんにくさえあれば、他のハーブ類はわざわざスーパーのハーブコーナーに行かなくても大丈夫。

例えば長ねぎの青いところやニラなど、和系野菜にもハーブとして使える野菜はたくさんあります。香りが強く、しかもその香りが好みの葉野菜のあまりを上手に使いましょう。


それでは今回の要点をまとめます。


①肉が大きければ中火、小さければ強火で肉に焼き色をつける。

②接地面が均等に加熱されるよう、油を多めに入れる。

③500g以上の肉は中火、500g以下の肉は強火。適宜休ませる。

④肉を休ませることができる「温かい場所」を用意する。


さて、それでは手順です。


<材料(4人前)>

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牛塊肉 500g

にんにく 5片

タイム 数本

長ねぎの青いところ 約10cmを数本

塩 小さじ1

胡椒 適量

太白胡麻油(澄ましバター) 50~100ml程度(フライパンの底が5mm~1cm程度隠れるくらい)


<作り方まとめ>

1. 牛肉には全面に塩をなじませる。フライパンに太白胡麻油を入れ、にんにくや長ねぎを含めた香味野菜・ハーブ類を入れ、火をつける(500g以上なら中強火、300gg程度なら強火)

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2。香味野菜から香りが立ったら、肉を入れる。各面を20秒ずつ転がすように焼く。300g程度なら2周、500g以上なら4周。

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3. 火を弱火に落としてフライパンの上に焼き網を渡す。肉を網の上に乗せて、ステンレスボウルなどフタになるものをかぶせる。焼くのにかけた時間と同じだけ休ませる。

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4. 2~3のステップを2~3回繰り返し、その都度弾力を確認する。一度やわらかくなった感触の肉がかたくなりはじめたら、芯温計で確認する。ただし熱源からはがしてすぐは内部まで熱が伝わりきっていないので、芯温の計測は休ませ終えたときに。最低55℃以上から好みの加減でカットする。

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ちなみに1ポイント

芯温計がなくとも弾力で判断はできるが(ステーキの回参照)、始めのうちは当然ながらブレが生じる。芯温計があったほうが焼きの上達速度は確実に早くなる。

温度の目安基準は55℃がレア、60℃ミディアム・レア、65℃ミディアム、70℃ミディアムウェルダン、75℃ウェルダン。高温になるほど体感上の熱の入り方は加速する。レアやミディアム・レアまで焼き上げたら、そこから先の加熱は慎重に行うべし。



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文・写真/松浦達也


「ほぼ牛一頭まるごと食べつくしクッキング」その他の記事はこちら>

松浦達也(フードアクティビスト)

松浦達也(フードアクティビスト)

東京都武蔵野市生まれ。ライター、編集者、フードアクティビスト。食専門誌から新聞、雑誌、Webまで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論」をテーマに幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでも食トレンドやニュースを解説するほか、経営者や政治家、アーティストの書籍企画や構成を手がけたコンテンツも多数。著書の『大人の肉ドリル』は"肉のバイブル"とも言われ、『新しい卵ドリル』とともに広く絶賛される。調理師免許持ちの日本バーベキュー協会公認バーベキュー上級インストラクター。マンガ大賞選考員でもある。

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