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ほぼ牛一頭まるごと食べつくしクッキング「ビーフシチューは炒めが9割【すね肉の極上ビーフシチュー】」

肉料理は最高の道楽だ。


調理の探求には科学の実験のような楽しみがあり、課題を解決したら、重い開かずの扉を開くような爽快感がある。その先に待っているのは、とびきりおいしい一口だ。


家庭の肉料理はもっとおいしくなる。このシリーズを読み込めば、店頭でどんな肉と巡り合っても大丈夫。すべての部位を極上の一皿に変える「ほぼ牛一頭まるごと食べ尽くしクッキング」、今回もスタートです!


ビーフシチューはなぜ「炒める」のか


家menをご覧のみなさま、こんにちは。いつも『大人の肉ドリル』がたいへんお世話になっております。松浦達也でございます。


『大人の肉ドリル』松浦 達也(マガジンハウス・刊)


1.大量の食べ歩きや取材等で触れた新しい知見や情報を盛り込む。

2.裏付けのある理にかなった調理法で組み立てる。

3.昔ながらのやり方でも意味のある手法は大切にする。


というスタンスでレシピを組み立てるようにしています。


3.については、これまでの「意味のない手順や素材、調味料は見直す」から思い切ってリニューアル! 最近、目先の新しさを追いかけて、調理を「正解」「不正解」で切って捨ててしまうレシピが増えているからです。


調理法をアップデートするのは当たり前。しかし長く愛されてきた昔ながらの手法でも残すべきは残し、上書きすべきは上書きする。というわけで、今回から3.は上書きしてみました。


春も間近ですが、まだまだ寒の戻りもある季節。

今こそ、すべてのうまみを凝縮した男の煮込み料理、ビーフシチューをきっちり押さえておきましょう。


「すべてのうまみ」というのは大げさな話ではありません。

ビーフシチューの代表的な素材は、玉ねぎ、にんじん、セロリ、マッシュルーム、牛すね肉などうまみを生むものばかり。グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸という、それぞれのうまみが相乗効果で数十倍になる成分が含まれているのです


さらに玉ねぎ、にんじん、セロリなどの野菜や牛すね肉は、炒めたり焼き目をつけることで、メイラード反応という"おいしくなる"反応を起こします

この反応は小麦粉などの他の素材にも起きるので、すべての材料に一定の焼き目をつけることで、うまみが加速度的に増していくのです。


さて本日のお肉。すでに紹介していますが、牛すね肉です。


実は牛すね肉自体、非常にうまみの濃い部位です

牛肉は運動する部位ほど赤身の味が強くなりやすい。おまけにすね肉にはコラーゲンもたくさん含まれています。

コラーゲンは加熱されると、おいしさを補強するゼラチン質になるのでこのシチューは本当にうまみ最強と考えていいでしょう。


本日のお肉~すね肉

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※部位の分け方、解釈は地域・事業者によって異なる場合がございます。


運動量が多く、小さな筋肉が集まっている上に筋繊維の量に比して筋膜の量が多いこともあって食感が硬いとされる部位。


筋膜や腱といったコラーゲンを多く含む「結合織」は80℃を目安に組織のゼラチン化が促進されます。結合織を細かく切ったりひき肉状に加工すれば、ハンバーグなどのひき肉の料理にも適性が高いことは本連載の第3回をご確認ください。


最初の"焼き"ですべてが決まる


ビーフシチューの調理工程において、味に最も影響を与えるものは?と聞かれたとき、僕は間違いなく「肉の焼き目」と答えます


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以前、とある雑誌の検証企画で、さまざまな基準を変えながら肉の煮込み料理を作ったとき、最も味が違ったのは“肉に焼き目をつけるかつけないか”だったのです。


焼き目をつけた肉の方はシチューソースまで含めて味もギュッと濃縮されたうまみがありましたが、焼き目なしにそのまま煮込んだ煮汁は、平板というか味気ないものに。

プロならばドミグラスソースに10日間かけるなど、味を乗せる方法もありますが、家庭でそんな時間はかけていられません。特にビーフシチューのような料理では、乗せられる味は逐一乗せていきましょう。


もちろん野菜もです。

まず玉ねぎをしっかり炒めるのは大前提。よく「あめ色になるまで」と言われますが、メイラード反応で、茶色にてらてらと色づいた玉ねぎの風味は甘く香り立ちます。味わいも濃縮されますし、含まれる糖分がカラメル化することで味はさらに深みを増します。


このタイミングで、コクを加えるにんにくや香りをプラスするセロリも一緒に炒めましょう。


玉ねぎの炒めが中盤に差し掛かったら、にんじんの投入です。

にんじんも炒めると香ばしい香りと深い味わいを付与してくれます。そして炒めることで表面がメイラード反応を起こし、独特の香りと甘みが引き出されます。


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マッシュルームなどきのこ類の入れるタイミングは少し後。

また今回のレシピでは、煮崩れたときにざらりとした食感になるじゃがいもは入れません。お好みの方は煮込み過程の後半で入れ、柔らかくなるまで煮たらいったん冷まし、温めてお召し上がりください。

煮込み料理は冷めるときに味がしみていきます


数年前、オリンパスの主催する自然科学観察コンクールで愛知県の中学生が「冷めるとき味がしみこむのはなぜか?」というテーマで特別賞を受賞しました。


中学生だからといって侮ってはいけません。とても手のかかる検証実験を何度も繰り返し、細胞を顕微鏡で覗いて「冷めるとき50~40℃くらいで、調味料水溶液から食材への水分移動が起こる」と結論づけています。

食材に味を入れるなら人肌くらいまでいったん冷ましましょう。


最後のポイントはブラウンソース。

ビーフシチューはあの濃厚な色があってこそ、味わいに深みが出ます。バターと小麦粉をしっかりチョコレート色になるまで炒めましょう


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それでは今回の要点をまとめます。


①肉は焼き目を必ずつけ、煮込みは弱火で気長に。

②玉ねぎはあめ色になるまで炒める

③ブラウンソースもチョコレート色になるまで炒める。

④煮込み上げたら、一度冷まして具材に味を染み込ませる。


さて、それでは手順です。


<材料(5人前)>

牛すね肉 750g

玉ねぎ 3個

セロリ 1本

にんじん 1本

にんにく 1片

ローリエ 3枚

マッシュルーム 大1パック

赤ワイン 300ml

水 1L

トマトペースト1袋

バター50g

小麦粉90g

ドミグラスソース1缶

オリーブ油 大さじ2


<作り方まとめ>

1. にんにく、玉ねぎはスライス、にんじんは乱切り、セロリはみじん切りにする。牛すね肉は大きめの一口大に切り、塩胡椒をして小麦粉を薄くまんべんなくまぶしておく。

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2. オリーブ油を入れた深めのフライパンを強火にかけ、牛すね肉を入れて一面一面焼きつける。全面にしっかり焼き色がついたら、赤ワインと水1L(分量外)を入れてごく弱火にかける。

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3. 別のフライパンを中火にかけ、バターと玉ねぎ、にんにく、セロリをあめ色になるまで炒める。にんじんを加え、表面に薄く焼き色がついたら、火を止めて水(分量外)を加え、鍋肌についた焼き目をこそぎながら2.の鍋に移す。マッシュルームを投入する。

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4. ブラウンソースを作る。鍋かフライパンを中弱火にかけ、バターと小麦粉を炒める。全体がチョコレート色になったら、鍋のスープを少しずつ加えてのばしていく。

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5. 4を3に加え、トマトペーストで酸味を調整して煮込んでいく。焦げ付かない程度に適宜水を加える。肉が柔らかくなったら、いったん完成。常温まで自然に冷まし、もう一度あたためたら、本当に完成。

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ちなみに1ポイント

すね肉のようなよく運動する部位は加熱するといったん硬くなります。しかし煮込み続けるとコラーゲンがゼラチン化してほぐれ、肉は柔らかくなります。

このとき、グツグツと高温で煮込むと筋繊維が急激に収縮。うまみも含めて肉の外へと絞り出されてしまい、肉が味気なくなってしまいます


きっちり焼き目をつけた肉を65℃くらいで30時間ほど煮込めば、やわらかさも肉の味も得られるでしょうが、そこまでマニアックにしなくてもいいでしょう。

「沸騰しない程度の弱火で肉がやわらかくなるまで」煮込めば、極上ビーフシチューにありつけます

あと、鍋肌にこびりついて乾いたソースはシチューのなかに戻しましょう。


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写真・文/松浦達也


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松浦達也(フードアクティビスト)
松浦達也(フードアクティビスト)

東京都武蔵野市生まれ。ライター、編集者、フードアクティビスト。食専門誌から新聞、雑誌、Webまで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論」をテーマに幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでも食トレンドやニュースを解説するほか、経営者や政治家、アーティストの書籍企画や構成を手がけたコンテンツも多数。著書の『大人の肉ドリル』は"肉のバイブル"とも言われ、『新しい卵ドリル』とともに広く絶賛される。調理師免許持ちの日本バーベキュー協会公認バーベキュー上級インストラクター。マンガ大賞選考員でもある。

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