いま一番おもしろくて勢いのあるのは“夫婦”? 『夫婦ってなんだ?』書評

飲み会の席などで、奥さんの悪口を言いたがる人が苦手です。

照れくささから言ってしまう人もいるのでしょうが、それはともかく困るのは、嬉々として奥さんを悪く言う人。こちらが恥ずかしくなるようなことを訴えられても、やはり困惑する以外にないわけです。

だから、「じゃあ、なんで結婚したの?」と反論したこともありました。のらりくらりとかわされましたが、もし不満があるのだとしたら、結婚前にそれを見抜けなかった男性にも責任があると思うのです。

ちなみに筆者は10代のころから、結婚願望が非常に強い人間でした。29で結婚したのですが、自分の結婚にいまでも満足しています。

そんな気持ちは妻になかなか伝わりにくく(照れて口にしないのだから当たり前)、どこか一方通行な感じがあるのも事実ですが……(女性のほうが現実的ですからね)。

でも少なからず、男女の愛情に関する価値観はどこかですれ違ってしまうものなのだろうと思います。それが当然なのだから、お互いにその点を理解したうえで共存していくことが大切だと感じるのです。

『夫婦ってなんだ?』(トミヤマ ユキコ 著、筑摩書房)の著者は、日本の文学、マンガ、フードカルチャーなどを専門とするライター。東北芸術工科大学芸術学部講師として、少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当してもいるのだそうです。

ちなみに、文中にも「おかもっちゃん」名義でしばしば登場するアフロヘアのご主人は、現役のミュージシャンであるオカモト"MOBY"タクヤ氏。長い活動実績を持つファンク/ロック・バンドであるSCOOBIE DOのドラマーです。

結婚生活は6年目に突入しているものの、夫婦のなんたるかについては、いまだによくわからないのだとか。そこで、「夫婦がわからないし、わかりたいから」本書を書こうと思い立ったのだといいます。

バンドマンと結婚した大学教員兼ライターのわたしは、そもそも「夫婦として」という構え自体がめんどくさい。夫婦ってなんだ? なんなんだ? いまはまだわからない。

わからないから、調べて、学んで、書いていく。これは、そういう本です。(15〜16ページより)

そんな本書において著者は、「アニメにおける夫婦」「ママタレ(結婚・妊娠・出産を経験した女性芸能人)」「仮面夫婦」「年齢差のある夫婦」など、あらゆる夫婦のあり方を紹介し、そして考察しています。

いま一番おもしろくて勢いのあるコンテンツってひょっとして“夫婦”なのでは? そう思いたくなるほど、夫婦の周辺が騒がしい。結婚、離婚、妊娠、出産、不倫、セックスレス、モラハラ、DV。

ワイドショーやネットニュースを日夜賑わせているこれらの言葉は、すべて夫婦と紐づいている。こんなにも夫婦が注目されたことって、あったっけ? 

これは夫婦復権の予兆なのか、それとも、夫婦が行き着くところまで行き着いてしまって、断末魔を叫んでいるのか……(6ページ)

この冒頭部分を読んだとき、いや、何度か読み返して咀嚼した結果、ものすごく納得できました。

厳密に言えば、目にした瞬間には「夫婦が夫婦である以上、“いま”も“昔”も関係ないのでは?」などと感じもしたのです。

が、考えてみればたしかに、いまほど夫婦のあり方が激変している時代もありません。だから著者も「夫婦オワコンの時代」について探りを入れるわけです。

夫婦の構築〜破壊〜再構築をサラッとやってのけたカリスマ編集者の末井昭氏、夫婦のあり方に一石を投じたラッパーの故ECD氏と写真家の植本一子氏など、引き合いに出される夫婦はみな個性派揃い。

「いや、これは普通じゃない人の話で」などと思いたくなるかもしれませんが、だとすれば「普通の夫婦」とはなんなのでしょう? 著者はそんな純粋な、しかし大切なことへと読者を誘導するのです。

だとすれば、夫婦のあり方に関する考え方もまた、人によって異なって当然。ですから、僕の意見もワン・オブ・ゼムにすぎないということになるのかもしれません。

なお本書に登場する夫婦のなかで、個人的な理想だと感じたのは、『人生フルーツ』(伏原健之監督、2017年)という映画に登場する老夫婦でした。

建築家である90歳のおじいさんと、妻である87歳のおばあさんの日常を淡々と追った作品。公開当時に観たときにも感じたのですが、自分の考える夫婦の最良のかたちをそこに意識したのです。

「ときをためる」がこの夫婦のキーワードなのだが、まさに、夫婦の時間とは流れ去るものではなく、積み重ねていくものであることを『人生フルーツ』は教えてくれる。

家事をしっかりやっている主婦は多いように思うが、その大切さを夫と共有できているひとは、ごく少ないのではないか。でもそれではときをためることはできない。

また、自分の信念を貫こうとする夫も多いように思うが、これだって、その大切さを妻と共有できなければ、ときをためることはできない。ただ一緒にいるだけじゃダメ。モットーを共有してこそ仲良し夫婦は熟していくのだ。(68ページより)

そういう意味では、手段こそ異なるものの、著者の夫婦もまた「ときをためる」を実践しているのではないかと感じました。

結婚のあり方とは形態が異なるものの、結果的には「ときをためる」ことを実践しているように見えるからです。

もちろん、好きなひとと寝起きを共にすることを幸せだと感じるひともいるだろうが、若干息苦しく感じるひともいるんじゃないだろうか。

わたしなんかは、完全に後者である。物心ついたときからひとりが大好きなひとりっこだったから、ひとりの時間がなくなってしまったら、頭がおかしくなると思う。

じゃあなんで結婚生活が継続できているかと言うと、結婚した相手がバンドマンだからだ。バンドマンは、週末ほとんど家にいない。ライブがあるからだ。地方開催ともなれば、当然泊まりがけ。

まるまる二週間家を空けることだってある。そのため、一応同居の形はとっているものの、一年の三分の一くらいは別居状態である。(176ページより)

夫婦双方合意の上であれば、離れて暮らす時間があったほうが夫婦関係がうまくいく場合もあるということ。

言われてみれば、僕の知っているある夫婦も、「週末にしか合わない合法的別居状態」だといいながらずいぶん仲がよさそうに見えます。

それどころか、旧来の結婚のスタイルが、いまの時代と合わなくなっているのかもしれません。

いまや結婚は「みんながするもの」でもなければ「一生に一度きりの、かけがえのない経験」でもない。
あるひとにとっては、自分ひとりで生きていくよりは安心・安全だろうという見通しに基づき選択された「生存戦略」であり、また別のひとにとっては、コストが高く望んでも手に入りそうにない「贅沢品」、またまた別のひとにとっては、そもそも「どうでもいいもの」……といった具合に、ひとによって意義や価値が異なってきている。(210〜211ページより)

つまり、答えはひとつではなく、夫婦の数だけ答えがあるということ。そして、どんな夫婦でも仔細に見ていけば絶対に学びがあり教訓があるものだと著者は指摘しています。

たしかにそのとおりで、だからこそ夫婦という関係性はおもしろいのかもしれません。

印南敦史
印南敦史

作家・書評家。広告代理店勤務を経て音楽ライターとなり、音楽専門誌編集長を務めたのちに独立。現在は書評家として「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「マイナビニュース」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などに、音楽評論家として「WEBRONZA」「e-onkyo」「MUSIC MAGAZINE」など複数のメディアに寄稿している。作家でもあり、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド者)をはじめ、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など多数の著作を持つ。

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