『逃げ恥』に学ぶ“チーム夫婦”のススメ 前編 | 白河桃子先生インタビュー

『逃げ恥』に学ぶ“チーム夫婦”のススメ 前編 | 白河桃子先生インタビュー

夫婦円満

契約結婚から始まる男女の恋模様を描き、2016年に社会現象的にヒットしたTVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(以下『逃げ恥』)を皆さんはご覧になりましたか? ドラマを見たことがないという方も、星野源の主題歌『恋』に乗せて新垣結衣たちが“恋ダンス”をキュートに踊る姿は記憶にあるのではないでしょうか。


その歌の中で特に印象的だったのが「夫婦を超えてゆけ」というサビのフレーズですが、果たして“夫婦を超えてゆけ”とはどういう意味なのか? 実はこのフレーズはドラマの核となるテーマと密接にリンクし、また現代の夫婦が避けては通れない命題も表していたのです。


そこで、『逃げ恥』を下敷きに結婚のカタチと夫婦のあり方について考えた『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(※)の共同著者でもある少子化ジャーナリスト・作家の白河桃子先生にインタビュー。


今回は、書籍でも述べられていた経済学の観点を交えながら、夫婦を超えた関係とはどのようなものか伺ってみたいと思います。


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  『逃げ恥』に学ぶ“チーム夫婦”のススメ 後編 | 白河桃子先生インタビュー 大ヒットドラマ『逃げ恥』を下敷きに、経済学の観点を交えながら夫婦のあり方について考察する著書を発表した白河桃子先生にインタビュー。後編では、“チーム夫婦”の体制を作り上げるために有効な“共同経営者会議”のコツについて伺います。 家men


目次[非表示]

  1. 1.家事の経済価値は、妻の自信につながる?
  2. 2.「夫婦を超えてゆけ」の本当の意味とは?

ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』あらすじ

派遣切りで無職になった25歳の女性・森山みくりは、家事代行サービスを利用していた35歳の会社員・津崎平匡の家へ、父の紹介で家事手伝いとして週1回通うことに。そんな中、定年を機に両親が田舎へ引っ越すことになり、みくりは平匡に住み込みでの雇用契約、つまり契約結婚を提案。雇用主と従業員の関係で共同生活を送るうちに、2人の間に恋愛感情が芽生えていき、本当の結婚とパートナーシップについて考えるようになる。

出典:『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(著者:白河桃子・是枝俊悟 出版社:毎日新聞出版)

家事の経済価値は、妻の自信につながる?


─書籍のテーマとするにあたり、『逃げ恥』のどのような点に注目されたのですか?

経済について語られる際に、給料を稼ぐ有償労働が経済活動の指標となるのに対し、無償労働の価値については今まであまり明らかにされてきませんでした。


『逃げ恥』では主人公みくりの家事労働の月給を19.4万円と算出したり、「正式に結婚すれば家事の対価をゼロにできる」と考える平匡に対してみくりが「それは好きの搾取です!」と断固反対するなど、無償労働の経済価値に着目しているところが興味深く、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』でも無償労働の経済価値について掘り下げています。


みくりの家事労働の月給19.4万円の算出方法

(『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』より 計算:是枝俊悟氏)

●みくりの月給=主婦としての1カ月の労働時間×1時間あたりの機会費用(=“機会”を失ったことによって得られなくなった収入金額。ここでは、家事を行う時間だけ外で働いていたら得られたであろう収入のこと)

●1時間あたりの機会費用=1383円(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2011年における女性の平均時給)

●みくりの1カ月の家事労働時間=140時間(1日7時間×20日。土日祝は休み)

※総務省統計局「平成23年 社会生活基本調査」によると、子なし専業主婦世帯における専業主婦の1週間の家事時間は平均32.7時間で、ほぼ同水準

●つまり1383円×140時間=19万3620円

出典:『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(著者:白河桃子・是枝俊悟 出版社:毎日新聞出版)


─こうした具体的な算出法で家事の経済価値が“見える化”されたことはありませんでした。

機会費用法に基づいた家事労働の月給計算からもう1つ分かってくるのは、無償労働によってどれだけ“機会費用の損失”が発生しているかということ。主婦の時給を1383円も稼げないだろうと思う方もいるかもしれませんが、最近はどの業界も人手不足が深刻でアルバイト・パートの時給は上昇傾向にあり、1383円という数字も十分妥当に感じられます。


ただし今回こうした算出で“見える化”したのは、家事の経済価値との交換で夫へ要求を突きつけるためではありません。「社会では女性活躍とか言われているけど、私は一銭も稼げてないし…」と自分を過小評価する主婦も多い中、家事労働にはこれだけの価値があるということを機会費用の概念から理解し、自分の価値を認めて自信を取り戻すために使ってほしいと思ったからです。


─パートナーの自信をつけてあげる方法として、経済的な数字の算出は分かりやすいかもしれません。

例えば大卒女性が就職して60歳まで働き続けると、平均的な生涯年収は約2億円になるという試算が出ています。夫婦で家事や育児を分担し、妻の“機会費用の損失”を最小限まで防ぐことができれば、その時間に見合った収入が家庭に入る──。そのメリットを夫婦で理解していただきたいのです。


もちろん、すべての家庭に共働きを求めているわけでも、家事や育児はきっかり均等に分担すべきというわけでもありません。お金だけの問題ではないですが「家庭をどうしていきたいのか」について話し合うきっかけになれたらと思っています。


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「夫婦を超えてゆけ」の本当の意味とは?


─ 一家の生涯年収にそんなに差が生まれると分かっていれば、結婚を機に女性がキャリアをあきらめるという道を選ぶ前に「夫婦で一緒に家庭と仕事を両立できないか」と真剣に考えるきっかけになりますね。とはいえ、いったん仕事の第一線から離れてしまうと、なかなか働く自信を取り戻せないという女性もいるのではないでしょうか?

そんな時こそ夫の出番。「君が毎日していることはこれだけの経済価値があるんだよ」と励まして、「私ならできる!」というパートナーの自己効力感を高めてあげましょう。そうした声掛けを含めて、妻がスムーズに仕事復帰できる就業サポートを心がけてください。


─今の時代は主夫も増えていますし、女性に限った話ではないですよね。「夫は大黒柱として外で働き、妻は家庭で家事育児に専念する」という昭和型の結婚価値観から先へ進む必要があるということですね。

『逃げ恥』の最終回で平匡は次のようなセリフを残しています。

「主婦も家庭を支える立派な職業になる。そう考えれば、夫も妻も共同経営責任者です」

出典:『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(著者:白河桃子・是枝俊悟 出版社:毎日新聞出版)


メンバーが2人いる “チーム夫婦”のスケールメリットをいかに活かし、性別にとらわれることなく有償労働と無償労働をどう乗り切っていくか。そのためにお互いを“家庭を支える対等の共同経営責任者”として認め合い、自分たちに合った働き方や暮らし方を一緒に模索していく──そうしたパートナーとの恊働体制こそが、『逃げ恥』の主題歌のフレーズにもある「夫婦を超えてゆけ」の本当の意味だと思っています。


機会費用という実感しやすい数字で考えていくと、夫婦で協力しながら家庭と仕事を両立できるライフスタイルについて具体的に話し合いやすくなりますね。次回は、“チーム夫婦”として家庭を共同経営していく実践法についてさらに伺っていきます。


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「逃げ恥」にみる結婚の経済学

(※)『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(著者:白河桃子・是枝俊悟 出版社:毎日新聞出版)


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白河桃子先生

白河桃子(少子化ジャーナリスト)

少子化ジャーナリスト・作家・相模女子大学客員教授。

東京生まれ。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。2008年に山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱し、19万部発行のベストセラー『「婚活」時代』(ディスカバー携書)などを出版。女性のライフキャリア、女性活躍、男女共同参画、働き方改革、ワークライフバランス、ダイバーシティまで幅広いテーマに取り組んでいる。近著に『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(毎日新聞出版)、『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』(PHP新書)など。