
「家事はプロジェクト単位で効率化。仕事で学んだことを家庭で応用する」Daddy's Talk第3回・後編 佐藤ねじさん(プランナー/アートディレクター)
各分野で独特の感性を発揮し目覚ましい活躍を遂げているパパたちは、どのような家庭生活を送っているのか──。そんな気になる疑問を掘り下げる「Daddy's Talk」。
今回は、WEB・アプリ・デバイスのスキマ表現を探求した作品の数々で注目を集めるクリエイターの佐藤ねじさんへのインタビュー後編。
仕事人間を自認する佐藤さんがどのように子育てや家事に関わっているか、気になる家庭生活について迫ります。
▼前編はこちら
“ワーカホリック体質”な父親の家庭との向き合い方
──普段は家庭でどのように過ごしていますか?
平日は夜遅くまで仕事していることが多いのですが、会社と自宅の場所が近いので、仕事の休憩がてらにふらっと自宅に戻って家族と顔を合わせることはあります。
それに仕事場と自宅が近いことで、パパが働いている間も家族にすれば「何かあったらいつでも帰ってこれる」と心理的なハードルが下がっていると思います。
──そうした距離感を実現できるよう今のオフィスや家庭の場所を選んだのですか?
はい。仕事と家庭のバランスを円満に保てるよう、周辺環境や距離感などいろいろ考えた上での選択です。
──土日は仕事を休めていますか?
独立してからは基本的に休日は自由に取れるのですが、長男が小学校に上がってからは、必然的に土日を休日とするようになりました。
独立前に面白法人カヤックで勤めていた頃は、平日にはできない“自分だけの作品づくり”に土曜の朝から夕方まで没頭していて、今もその名残りで土曜は自由なモノづくりの時間にあてています。日曜は家族と一緒に過ごせるよう完全フリーにしていて、土曜はちょうどオンとオフの中間みたいなものですね。
──土曜は完全な休日というより平日の延長みたいなものですか。
元々僕はワーカホリック体質なので、平日の仕事がどうしても土曜までずれ込むこともあります。そんな時でも、土曜をオンとオフの中間に位置づけておくと、「土曜にパパが仕事でも仕方ないか」という空気感になるバッファ(緩衝材)の役割を果たしてくれます。
パパと子ども──それぞれの興味の交差点を見つけて遊ぶ
──日曜は主にどのように家族と過ごしていますか?
遠出することはそんなにないですね。近くの河川敷によく出かけています。子どもは外に出たら夢中でボールで遊んだり、家の中では工作やゲームに没頭したり、インドアもアウトドアも楽しんでいますよ。
──お子さんとよくやる遊びはありますか?
僕が元々ボードゲームが大好きで、子どもにその面白さを教えながら一緒にプレイしています。しりとりゲームの「ワードバスケット」や、マニアックですが「ドミニオン」とか。「ドミニオン」なんかはちょっと難しいんですけど、子ども向けのゲームって大人にとって退屈だったりしますよね。
だから子どもと遊ぶにあたっては、“自分にとって楽しいこと”と“子どもにとって楽しいこと”が交差し、さらに妻も納得するようなものを探るようにしています。その点、ボードゲームは大人が楽しめて子どもの知育にもなるからピッタリなんです。
──大人と子どもの“楽しいことの交差点”を探るコツはありますか?
大人が好きな遊びを強引に勧めても子どもは興味を示しません。まずは子どもの嗜好を把握した上で、知識欲を刺激するように「このボードゲームはここが面白いんだよ」とその魅力をきっちり詳しく説明することです。
クライアントのニーズを叶えつつ自分が面白いと思える表現方法を探って提案するという、広告のプレゼンと似ていますね(笑)。
──パパの日々の仕事は子どもとの遊びにも活かせるのですね!
とはいえ、ウチの子もそうですが、初モノに慎重な子どもっていますよね。そんな時は、とりあえず1回遊ばせてみてください。そこで子どもに勝たせて成功体験を得られたら一気にハマりますよ。
家庭の問題も仕事と同じくロジカルに解決
──佐藤さんは2016年に株式会社ブルーパドルを立ち上げましたが、独立したことで家族との関係性や過ごし方は変化しましたか?
仕事の自由度を高めて家族と近い場所で働けるようにすることも独立の動機だったので、その目的は十分に果たされています。
仕事場と自宅が近いことで妻の心理的ハードルが下がるし、家庭がうまく回って心配事がなくなることで僕も仕事に集中できる。つまり、僕にとって仕事と家庭は表裏一体でつながっているもの。今は両方のバランスがうまく取れていると思います。
──そうした家族にとってのメリットも含んでいるとはいえ、会社を辞めて独立することを家族は反対しませんでしたか?
子どもにボードゲームの魅力を説明するように、妻にも独立のメリットを納得できるよう説明しました。具体的な数字を交えて「今の会社に勤めていると10年後にはこうだけど、独立するとこうなる…」とプレゼンし、むしろなぜ独立しないのか?と思えるまできっちり説得しましたね。
──奥様とは普段どのようなコミュニケーションを取っているのですか?
妻も僕も理屈で話をするのが好きなタイプなので、基本的には何でもスムーズに話せていますね。僕が「こんな仕事をこんなふうにやってうまくいった」と報告することがあれば、逆に妻の仕事の話を聞いて「君の強みはこうすれば活かせるよ」とアドバイスすることもあります。
──佐藤さんから仕事のアドバイスを得られるなんて心強いですね! 家庭生活において奥様のケアは何か心がけていますか?
僕は何事においても効率化を重視するタイプで、家庭のことも「課題を見つけてその解決手段を探る」というプロジェクト単位で考えています。
例えば、自動化できる家事には生活家電を導入したり、洗濯物がたまりがちであれば道具の配置を換えて効率的な動線にするといった解決策を提案しています。
──プロジェクト単位! まるでビジネスですね。そうした課題の発見や意見交換を通じて夫婦喧嘩になったりしませんか?
疲れていたり「今言うと明らかにモメるだろうな」というような時はそっとしておき、ある程度落ち着いてからちゃんと話し合うようにしています。
もちろん1度も夫婦喧嘩になったことがないわけではありませんが、こうした理屈の話し合いによって課題が解決していったという積み重ねがあるからできることです。
──奥様と家事分担を行っていますか?
料理が苦手なので、できない家事は基本的に妻に任せていますね。その代わりとして、先ほど話した「自動化できる生活家電の導入」のように、家事を減らす効率化や仕組みの提案でカバーするようにしています。
──夫婦それぞれの能力に応じた適材適所を図っているわけですね。
もちろん家事分担は大切なことですが、結局は自分にできないことを無理にやろうとしても続かないと思うんですよ。その結果、できない家事をやろうとしてうまくいかずに負い目を感じたり、できないことをパートナーに責められることもありますよね。
だから僕の場合は「できないこと」を前提に、それ以外の形で自分が貢献できるスタイルを日々模索しています。
仕事とプライベートをポジティブな意味で分けない
──これまで話していただいた育児観や夫婦観というのは、何かの影響を受けて育まれたものなのですか?
ビジネスで成功を収めた人の生き方やメソッドから影響を受けることはありますが、育児論や夫婦関係のノウハウを他人から学んだことは特にないですね。
でも、コミュニケーションを通じて目標達成への道筋を見出す「コーチング」のように、ビジネス上のメソッドを子育てに応用することはありますよ。
──人を指導するための有効なコミュニケーション方法として、コーチングと子育てに相通じるものがあるんですね。
仕事とプライベートをポジティブな意味で分けないようにしています。その一環として、実際に仕事で効果を実感できた方法を取り入れました。
あと、僕の親が厳しすぎて深いコミュニケーションをなかなか取れなかったため、その姿を反面教師とし、自分の子どもにはもっと距離感の近い接し方を心がけています。
──最後に、今後の家庭生活の目標があればお聞かせください。
現状の親子関係や夫婦関係が楽しくできているので、このまま持続していきたいですね。
とはいえ、これから子どもが大きくなって反抗期になると、今のように仲良しではいられないでしょうから、その時になってから改めて向き合う必要があるでしょう。自分のやりたいことと子どもの興味が合わさる“交差点”を探りながら、年齢に応じたコミュニケーションを図っていきたいと思います。
ビジネスのメソッドを子育てや家庭生活に積極的に活用するというのは、敏腕クリエイターの佐藤さんらしいスタイルですね。
仕事で日々培っている“自分の得意分野”を活かす佐藤さんのスタイルは、仕事に打ち込んでいるパパたちが家庭でも存在感を示すための格好のお手本になるのではないでしょうか。
▼前編はこちら
▼Daddy's Talk 過去の記事はこちら
<インタビュー協力>
佐藤ねじさん(プランナー/アートディレクター)
1982年生まれ。「空いている土俵を探す」というスタイルで、WEB・アプリ・デバイスのスキマ表現を探求。ハイブリッド黒板アプリ『Kocri』や『しゃべる名刺』『レシートレター』などの斬新な作品を発表し、グッドデザイン賞BEST100をはじめ数々の賞を獲得。2016年7月に面白法人カヤックから独立し、株式会社ブルーパドルを設立。著書に『超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方』(日経BP・刊)。