「妻がお笑いに興味がないことで僕は救われた」Daddy's Talk 第4回・前編 ジョイマン・高木晋哉さん(お笑い芸人)

「妻がお笑いに興味がないことで僕は救われた」Daddy's Talk 第4回・前編 ジョイマン・高木晋哉さん(お笑い芸人)

夫婦円満

各分野で独特の感性を発揮し目覚ましい活躍を遂げているパパたちは、どのような家庭生活を送っているのか──。そんな気になる疑問を掘り下げる「Daddy's Talk」。


今回は、かつて「ナナナナ〜」のラップネタで一世を風靡したお笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉さんにインタビュー。キャリアの浮き沈みが激しい芸人を支える奥様との関係などについて伺っていきます。


結婚のきっかけは「テレビ番組」

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──奥様とは2010年に結婚していますが、出会ったのはいつ頃ですか?


まだ芸人の仕事が少なかった頃だから、結婚する2〜3年前かな。友人に紹介されて2対2の飲み会を開き、すぐに意気投合しました。ちなみに、当時一緒に住んでいた市川こいくちさん(オナラで吹き矢を飛ばすピン芸人)と参加し、市川さんももう一人の女性と後に結婚したんです。成婚率100%ってすごい飲み会ですよね(笑)。


──高木さんは奥様のどんなところに惹かれたのですか?


お笑いに興味がなかったところですかね。

ライブに足を運ぶぐらいお笑いに詳しい女性だと、「あのボケは何なの?」なんて家に帰ってまで仕事の話題になりそうで、落ち着けないじゃないですか。でも妻はお笑いに全然興味がなくて、芸人の名前もほとんど知らなかったんです。そこがとても新鮮で良かったですね。


──逆に奥様は高木さんのどんなところに惹かれたのでしょう。


妻によると僕の顔は「飽きない顔」だそうです(笑)。あと「足がキレイ」というのも印象に残ったそうです。そんな感じで妻には天然なところがあって、そこも惹かれた理由の1つですね。


──交際期間2〜3年を経て、どのように結婚への踏ん切りがついたのですか?


交際中にテレビに出るようになって仕事も増えていきましたが、芸人はいつどうなるか分からないという職業柄もあって「結婚して自分以外の人も養うなんて無理だな」とずっと思っていました。そして仕事が減り始めた2010年に、テレビ番組でサプライズプロポーズの企画を持ちかけられたんですよ。

今後こうやってテレビで取り上げられる機会はなかなかないんじゃないか?と思い、背中を押されるようにプロポーズを決意しました。


──その番組、覚えてます。横浜の「アルテリーベ」という雰囲気の良いレストランでプロポーズしましたよね。実は私もその店で妻にプロポーズしたんですよ。


えっ! なんですかその偶然は(笑)。僕はYahoo!知恵袋でサプライズプロポーズにオススメの店として教えてもらいました。

本番ではめちゃくちゃ緊張してプロポーズをなかなか切り出せず、あげくにいきなり立ち上がって「結婚してください」なんて大声で言ったものだから、妻は恥ずかしくて引いてましたね(笑)。


仕事が減ったことで夫婦関係はむしろ円満に

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──ちょうど結婚した年から『エンタの神様』などのネタ番組が次々と終了していきましたが、仕事や結婚生活には影響がありましたか?


僕のようにショートネタが売りの芸人には、ネタ番組がなくなるのは致命的でしたね。その結果、仕事は激減してしまいましたが、当時は「妻がお笑いに興味がない」ことですごく救われました。


──救われたというのは具体的にどういうことでしょう。


仕事で忙しい頃は僕が家に帰らないことが多々あり、それが妻にはすごく嫌だったそうです。仕事が減ったことで僕が家にいる時間が長くなったのですが、逆に妻は「一緒にいられる時間が増えて嬉しい」と言ってくれたんですよ。

世間から一発屋扱いされて焦っていた僕にとって、すごく癒やしになりましたね。本当に妻と結婚して良かったです。


──とはいえ、仕事が減ると収入も減って生活が大変だったんじゃないですか? 今年のあるイベントでも「最高月収は180万円、最低月収は13万円」と告白していましたよね。


一発屋芸人は最高月収・最低月収の質問を必ずと言っていいほど受けますから(笑)。実は最低月収は1ケタの時もありました。そういう時期は貯金を切り崩してなんとか生活していましたね。


──奥様が外で働いて収入を得るという選択肢はなかったのですか?


仕事がない僕に対して妻が気を使ったんじゃないかな。それに、僕の仕事が急に入った時でも子どもの面倒を見られるようにしてくれたんでしょう。妻はお笑いに興味がないとは言っても、僕にお笑い芸人を辞めてほしくないと思っていて、何かと僕のことを立ててくれるんですよ。


──なるほど。逆に高木さんが奥様に気を使ったりケアしたことはありますか?


「あれをやれ」「これをやれ」と妻を追い込まないようには気をつけていました。あとはベタですが、皿洗いや洗濯とか家事を分担したぐらいですかね。


──得意な家事はありますか?


パスタ料理はけっこう得意で、今でも娘にリクエストされます。パスタって簡単だし材料費が安いから、芸人として売れる前の頃からよく作ってたんですよ。


──そうした結婚生活を通じて、ご自身の人生観などに変化は生まれましたか?


大学を中退してお笑いの道に進んでから「お笑いで成功しないと人生は失敗だ」とずっと思っていて、常にお笑いが人生における最優先事項だったんですよ。

ところが妻と結婚し子どもが生まれ、帰る場所がある喜びや安心感を体験するうちに「こういう幸せもあるんだな」と気づかされました。お笑いを通じて得られる幸せばかり追っていた僕にとって、まったく違う種類の幸せが増えたことは新鮮でしたね。


共働きで忙しくなった妻に抱いた複雑な感情

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──高木さんと同じ時期に活躍した芸人仲間のパパ友はいますか?


はい。「一発屋オールスターズ」というユニットを組んだ縁で、レイザーラモンHGさんとは仲良くさせてもらっています。


──パパ同士の会話で話題になることは?


同年代の子どもを持っている仲間が多いので、家庭の悩みをいろいろ相談していますね。妻と喧嘩したことをグチったりとかも。


──先ほどのお話ではとても仲が良い夫婦という印象だったのですが、やっぱり奥様と喧嘩することもあるのですか?


そりゃあ、ありますよ。実は最近、妻が介護士の仕事を始めたんです。最初はパート扱いだって聞いていたのに、家の近くで働いているものだから頼りにされて社員並みに仕事が忙しくなり、「あれ?言ってた話と違うじゃないの」って鬱憤が溜まるようになったんです。


──そうした気持ちを伝える機会はなかったのですか?


妻が仕事を始める前はよく一緒に晩酌して、テレビを見ながらいろいろ話をしてたんですけど、介護士の仕事が忙しくなってからはそういう夫婦の時間をあまり持てなくなりました。


──仕事で家を空ける時間が長くなることが不満なのですか?


妻もずっと家にいるのではなく外で仕事もしたいだろうから、忙しくなることはある程度割り切っています。それより、外で働くからやたらとオシャレに気を使ったり、職場の人と飲み会に行くことが気になったんですよ。これって嫉妬ですかね(笑)。


──奥様が家以外の場所で活躍することで、いろいろ複雑な心情が芽生えたということですか。


「自分でお金を稼ぐようになって、僕の知らないテイストの服や派手な下着を着るようになってないか?」から「もしかして浮気してるんじゃないか?」まで、勝手に悪い方に考えるようになったんです。

そんな嫉妬は無意味なことだからすごく嫌だし、グチグチ嫉妬する自分も嫌なんですよ。あげくに「こんな時間に仕事に行くの?」なんて文句をつい言って、喧嘩になることもありました。でも、そういう鬱憤をため込まずにぶつけたおかげでお互いの気持ちを理解することができ、今は嫉妬の感情を乗り越えて仲良くやってますよ。


──今後の夫婦関係で夢や目標はありますか?


子育てが一段落したら、2人で飲みに行ったり出かけたりしたいな。子どもをつくるのを1人だけにしたのも、そうした時間を過ごせるようにという思いもあったんですよ。プロポーズした思い出の横浜をもう一度巡ってみたいですね。海にも行ってみたいけど、妻がアウトドアが苦手なもので(笑)。


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キャリアの下降期と結婚のスタートが重なったにもかかわらず、逆に「一緒にいられる時間が増えて嬉しい」と前向きに高木さんを支えてくれた奥様への感謝が伝わるインタビューでした。家族=帰る場所という新しい幸せを見つけたことが、どん底にあっても再起をあきらめない力の原動力になったのでしょう。

後編では、自身の持ちネタ「ナナナナ〜」にちなんで命名したという娘との関係について伺います。


▼Daddy's Talk 過去の記事はこちら






 


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<インタビュー協力>

高木晋哉さん(ジョイマン/お笑い芸人)

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早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷和志と「ジョイマン」を結成。2008年ごろからテレビへの出演が増え、韻を踏んだナンセンスなラップネタで一世を風靡する。詩を書くことが趣味で、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となり詩集『ななな』(晩聲社・刊)も出版。2018年には解散を懸けた15周年記念単独ライブ「ここにいるよ。」を開催し、見事チケットを完売。

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