「『お弁父』を始める前は、ほぼ料理経験がなかった」Daddy's Talk 第11回・前編 和田率さん(クリエイティブディレクター)

「『お弁父』を始める前は、ほぼ料理経験がなかった」Daddy's Talk 第11回・前編 和田率さん(クリエイティブディレクター)

料理

目次[非表示]

  1. 料理経験ほぼゼロから始めた「お弁父」の分岐点
  2. 子どもの好き嫌いに親が責任を感じすぎないほうがいい
  3. 自分の好きなように時間を使えるパパたちが、うらやましくて悔しかった
各分野で独特の感性を発揮し目覚ましい活躍を遂げているパパたちは、どのような家庭生活を送っているのか──。そんな気になる疑問を掘り下げる「Daddy's Talk」。

今回は、元CMプランナーでキッチン用品ブランド「remy」を主宰する和田率さんにインタビュー。Instagramで注目を集めている「#お弁父」に込めた思いを語っていただきます。

料理愛好家の平野レミさんを親に持つ和田さんですが、長女が小学生になるまでほとんど料理をしてこなかったのだとか。

料理経験ほぼゼロから始めた「お弁父」の分岐点

和田さんがインスタグラムに投稿しているお弁父。2019年からは長女と長男の二人分のお弁当を手作りしている
──お子さんに毎日お弁当を作ってInstagramに投稿する「お弁父」が話題を集めていますが、和田さんがお弁当作りを始めたきっかけは?

子どもが3人いるので、家事育児はなかなか大変で。夫婦でできるだけ分担しているのですが、2017年に長女が小学1年生になる時、お弁当問題が勃発。妻(食育インストラクターの和田明日香さん)は朝に弱く、逆に僕はサーフィンが趣味で朝は強い。なので、無謀にも、お弁当担当を買って出ました。

──もともと料理は得意でしたか?

いえ。作れてせいぜいピザトーストくらい(笑)。日常的に料理したことがなかったので、正しい卵の焼き方も野菜のゆで方も分からないし、みりんって何だろう?ぐらいの知識レベルでした。

──ほぼ料理経験ゼロでお弁当担当になったんですね。誰かに料理を教わったのですか?

妻に教わることもありましたが、たいてい、料理本を片手に孤軍奮闘してました。調味料を代用する方法も知らなかったんで、砂糖を切らして慌ててコンビニにダッシュしたり、レシピ本の分量に縛られすぎて、おかずを作り過ぎてしまったり、失敗ばかり。「こんな調子だとこの先続けられないぞ」と思って、ある日ふと、料理本を見るのを止めたんです。

──本を読まずにどうやって料理を進めるようにしたのですか?

料理が得意じゃなくても、バーベキューくらいはできますよね。“肉を焼いて塩をかける”ってくらいシンプルな考え方でも、料理は作れるって気づいたんです。考え方をリセットしてからは、「酒を入れたら肉や魚の臭みが取れるんだ」とか「砂糖やみりんの甘みでもコクが出るんだ」とか、味付けの理論が分かるようになりました。調味料もいちいち計らず、勘と舌を信じるようにして。そしたら、調理スピードも一気に早くなり、弁当呪縛から解放されました(笑)。

──誰に教わるともなくそうした料理感覚を身につけられるのはスゴイですね!

マニュアルよりも、自分の舌の感覚を信じたのが良かったですね。カーナビに頼ってばかりだといつまで経っても道を覚えられないのと同じで、料理本に頼ってばかりだと料理はなかなか覚えられません。
自分で迷いながらゴールへたどり着く経験を重ねることで、運転も料理も上手になるんだなと思います。もちろん、丸鶏のローストチキンみたいに“遠出”をする場合はナビが必要ですけどね(笑)。
──家族が食べる料理は、キチッと整った味が求められるお店の料理とは違いますから、それぐらい自由なのがちょうどいいんでしょうね。

ですね。キチッと作るとこっちが疲れるし、飽きちゃうんで、たまに冒険もしています。「ナンプラー入れたらタイ風になった!」とか、「余熱で火を通したらお肉がフワッフワになった!」とか、日々新しい発見があって面白いですよ。いつもと違う道をドライブしたら、見たことのない景色が見つかった!というのと同じですね。

──そうした変化に富んだ自由な料理スタイルが、いつしか子どもにとって“パパの味”として記憶に残るんでしょうね。

そんな立派なものじゃないですけど、だし巻き卵は“パパの味”が確立していて、外で買うものより全然美味しい!って言ってくれます。一方、煮物の味付けは、妻が考えた調味料の黄金比があり、これには敵いません。パパとママは1つの単位なので、あくまで“我が家の味”を覚えてもらうのが大切なんだと思います。

子どもの好き嫌いに親が責任を感じすぎないほうがいい

──お弁当作りには盛り付けという工程もありますが、和田さん流のこだわりは?

見た目がいいとテンションも上がるんで、色使いには気を遣っています。ポイントは、赤・黄・緑を入れること。赤はトマトや肉類。黄色は卵や付け合わせのレモン。緑は野菜。この3色を意識するだけで、どうってことない弁当も“それなり”に見えちゃうんですよ。
──一般的なお弁当にはご飯やおかずなどの食材を分類する間仕切りがありますが、和田さんのInstagramを見ていると使われていませんね。

ごはんの上にお肉をドン!空いたスキマに野菜をドサ!このスタイルが楽チンです。間仕切りを使うと料理の配置がルール化されちゃうからあまり好きじゃなくて。盛り付けで遊ぶと、「何これ?」「面白い!」って娘の友達が集まってくることがあるそうです。そういう光景も、なんだか温かいじゃないですか。

──お子さんはどんなお弁当だと喜びますか?

リクエストが多いのは、揚げ物系ですね。唐揚げ、トンカツ、エビフライ。当然、毎日は作ってられないんで、金曜日だけ、“フライ”デーってことで揚げ物にしています。金曜の朝になると、「今日は何フライ?」って足元にすり寄ってくるんです。「今日は唐揚げ大盛りだ!」とか言うと、普段はベタベタしてこない長女も、抱きついてきたりして、こっちが嬉しくなっちゃいます。

──曜日によってお弁当のテーマが決まっているんですか。逆に、あまり好きじゃない食材の曜日だと子どものテンションが下がったりしませんか?

長男は魚が嫌いなので、魚の日はテンションがダダ下がりですよ。でも、いろいろ味付けを工夫して、ぎりぎり、カレーマヨ風味なら食べてくれるようになりました。

──お弁当に限ったことではありませんが、子どもの好き嫌いは親にとって永遠の悩みですよね。

「子どもの好き嫌いは親のせい」と考えている方もいると思いますが、必ずしもそうではありません。うちは、子ども3人に全く同じものを食べさせてきましたが、長男は肉が好きで魚が苦手、次女はその逆──。生まれながらの好き嫌いってあるんですよね。子どもの味覚は成長と共に変わっていくので、焦らず、いつか食べられるようになるのを待てばいいんです。

──そう思えると親にとっても気が楽ですね。

嫌いなものを無理やり食べさせられたら、ゴハンの時間が楽しくなくなりますからね。でも、食わず嫌いは禁止です。見た目で敬遠されがちな食材も、とにかくひと口食べてみる。それでも嫌なら無理に食べさせない。それが我が家のルールです。

自分の好きなように時間を使えるパパたちが、うらやましくて悔しかった

──「お弁父」を通じて家族関係に変化はありましたか?

家族のコミュニケーション量が増えましたかね。仕事からの帰り道、妻に電話して「冷蔵庫に何がある?」「何か残り物ある?」と聞いたり、朝に「この味どう?」と味見してもらったり。子どもとの会話も増えました。お弁当の中身をネタに「なんで秋鮭はおいしいと思う?」とか、「ちくわって何でできているんだ?」とか、クイズにして。

──自分が実際に食べるものだと、子どもにとっても学びの関心と意欲が増しそうですね。

食って5科目すべて含まれているんですよね。食材の名前は「国語」。料理によって“鮭”と“サーモン”を使い分けるのは「英語」。食材の産地は「社会」。大さじ・小さじの分量計算は「算数」。塩味と甘味が口の中で美味しく混ざり合う反応は「理科」。そんな話を、雑談しながら子どもたちに伝えています。

──そうした食にまつわる教えは、和田さんが「お弁父」のInstagram投稿に書き加えているメッセージに相通じるものがありますね。

家での会話が筒抜けなのでちょっと恥ずかしいですが、Instagramの投稿を日課にしてると、「今日もちゃんと作るぞ!」っていうモチベーションに繋がるんです。飲み過ぎた翌日や、絶対サーフィンに行きたい!って日は妻に任せちゃいますが(笑)。

──投稿に対してフォロワーからたくさんコメントが届いていると思いますが、その中で印象に残っているものはありますか?

たまに、「僕も初めてお弁当づくりに挑戦しました!」とか、「率さんの投稿を見てウチの旦那が料理をするようになりました!」ってコメントをいただくんです。パパだってキッチンに立っていいんだ! そんな価値観が広がったと思うと、すごく嬉しいですね。

──確かに和田さんのInstagramの投稿を見ていると、お弁当作りが楽しそうだし、自分も作ってみたくなります。

楽しんでいるフリをしている、という部分も少しありますよ。家事育児を苦痛に感じたら、負けのような気がして(笑)。たまに思うんです。仕事だけしてれば許されちゃうパパたちのことを「うらやましいなぁ」って。でも、それってすごく切ないじゃないですか。やっぱり、家事育児をできるだけ楽しいことに転換していかないと。

──料理づくりのメリットをパパたちに伝えるとしたら、どんなポイントが挙げられますか?

ロールプレイングゲームで例えるなら、“レベルアップ”ですよね(笑)。新しい呪文を覚えたら、強い敵を倒すことができる。ママが仕事で遅くなるワンオペの日も、難なくクリアできる。ぐずぐず機嫌の悪いこともたちも、唐揚げ攻撃で、一発で機嫌が良くなる。レベルアップすると、ゲームはラクになるし、楽しくなるものです。

──今後いつまで「お弁父」を続けていきたいですか?

もし学校で給食が始まったら両手を挙げて喜ぶと思いますが(笑)、一番下の子が中学を卒業するくらいまで。あと10年くらい? それまで自分も成長を続けて、将来は弁当屋でも開きましょうかね。
アイデア豊かで見た目にもおいしそうな「お弁父」が、料理経験ほぼゼロの段階から自己流で極めたものだとは驚きでした。子どもを持つと独身時代と比べて自由な時間が減って不満…というパパにとって、「今自分が置かれた状況を楽しいものにする」という和田さんのポジティブ精神は大いに参考になりそうですね。

次回は、和田さんの家庭像について、料理愛好家である母の平野レミさんから受け継いだ教えを交えながら語っていただきます。
<インタビュー協力プロフィール>
和田率さん(remyクリエイティブディレクター)

電通のCMプランナーを経てキッチンブランド「remy」を立ち上げ、キッチンウェアの企画デザインやアプリ開発などに携わっている。主な受賞歴にグッドデザイン賞、キッズデザイン賞、人間工学グッドプラクティス賞ほか。私生活では三児のパパで、2017年から子どものお弁当を作るようになりその記録をInstagramに投稿している。著書に『お弁父』(ネコ・パブリッシング刊)。

写真:木原基行

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