【アカデミー賞主演男優賞受賞】『ジョーカー』 | 誰が“ジョーカー”になってもおかしくない現代社会への警告

【アカデミー賞主演男優賞受賞】『ジョーカー』 | 誰が“ジョーカー”になってもおかしくない現代社会への警告

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  1. アカデミー主演男優賞受賞!なぜアメコミ映画がここまで評価された?
  2. 社会のどん底でもがく青年が異様な狂気に目覚めるまで
  3. 「自分の心の中にもジョーカーがいる」と気づかされる衝撃

アカデミー主演男優賞受賞!なぜアメコミ映画がここまで評価された?

昨年に劇場公開されるや世界各地で社会現象的なヒットを記録した『ジョーカー』。映画ファンだけでなく専門家たちからも絶賛され、世界三大映画祭のベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞を受賞。映画界最大の式典・アカデミー賞でも最多11部門にノミネートされ、主演男優賞など計2部門に輝きました。

映画に詳しい人なら説明不要でしょうが、ジョーカーとはアメコミヒーローの雄・バットマンの宿敵で、今回の映画はジョーカーの誕生秘話を描いたものです。でも、一般的に社会派ドラマなどシリアスな作品が評価される傾向のアカデミー賞において、なぜアメコミ映画に属する『ジョーカー』がこれほど高い評価を受けたのか?

その理由を、作品の特徴や見どころに迫りながら紐解いていきます。

社会のどん底でもがく青年が異様な狂気に目覚めるまで

物語の主人公は、ジョーカー…ではなく、犯罪都市ゴッサムシティで年老いた母を介護しながらコメディアンを夢見る、心優しい孤独な青年アーサー。幼い頃から感情が高ぶると反射的に笑いだす障がいを持っていた彼は、ピエロの派遣業で下積みに励んでいましたが、やることすべてがうまくいかず、病んだ精神を薬の力で制御せざるをえない状態。

そんなある日、成り行きで銃を手にしたアーサーは、電車の中で絡んできた男たちを衝動的に射殺したことから、たちまち悪の心に支配されていくのです。

©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

ジョーカーという希代の悪役の誕生秘話、つまりアメコミヒーロー映画のスピンオフ(番外編)を見ようと思ってこの作品に臨むと、正直肩透かしを食らうかもしれません。なぜなら、アメコミ映画らしいド派手なアクションもコミカルな掛け合いも一切なく、本編の大部分は純粋な青年がいかに社会のどん底へと追い詰められ壮絶な狂気に目覚めていくかを描いているからです。

富める者と貧しい者、うまくいく人と要領の悪い人に二分化された現代社会において、アーサーのような金にも運にも恵まれない平凡な人間にとってどん底から這い上がるのはあまりにも困難。その境遇は見ていてとても痛ましいけど、彼が見舞われる不幸の1つ1つは誰が体験してもおかしくないものではないでしょうか。

いわばこの作品は「誰がアーサー=ジョーカーになってもおかしくない」という現代の写し鏡であり、普遍的な問題提起。アメコミ映画というよりは、社会派映画の傑作『タクシー・ドライバー』の現代版を見ているような感覚さえ覚えてしまいます。

「自分の心の中にもジョーカーがいる」と気づかされる衝撃

もちろんこの作品に超絶的なインパクトが宿ったのは、主人公アーサー=ジョーカーに扮して見事アカデミー主演男優賞に輝いたホアキン・フェニックスの圧倒的な演技があってこそ。

本来的には純朴な青年として演じつつ、ジョーカーの“狂気のシンボル”である甲高い笑い声を生身の人間による悲痛な叫びとして発し、社会にうまく適合できない一人の人間が壊れていく様を痛々しいほどリアルに体現──。将来的には究極悪となるアーサーなのに、見ているうちについ同情・共感させられてしまいます。

©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

そして自分がアーサーに共感していることに気づいた瞬間、「自分の心の中にもジョーカーがいる(自分もジョーカーになりうる)」ということに驚き困惑させられる…。そうやって見る者の心を深くえぐるようなインパクトの強い作品だからこそ、世界各国で社会現象的なヒットを記録し、アカデミー賞をはじめ世界中の映画賞で絶賛を集めたのでしょう。

都会の片隅で夢に破れ、社会に適合できず、不安と孤独に狂わされて悪に染まっていく──。アメコミ映画の枠組みを超えた、社会派映画と言っても過言ではないディープな衝撃作を、自身の生き方を見つめ直すためにもぜひご覧になってはいかがでしょうか。

※ちなみに本年度アカデミー賞で『ジョーカー』を抑えて作品賞・監督賞に輝いたのは、ポン・ジュノ監督による韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。こちらも『ジョーカー』と同じく、ユーモアありスリルありの硬軟自在な演出で格差社会の闇を浮き彫りにした“今見るべき秀作”なので、ぜひご覧ください。

『ジョーカー』(2019年) /アメリカ/ 上映時間:122分
DVD・ブルーレイ発売中
©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics