
【水害対策】大切な家族の命は自分たちで守る!水害から命を守る準備と防災アクション
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毎日の暮らしの「困った!」に役立つ技やコツをご紹介する連載「目指せ我が家のHERO!家族を助ける特技を作る」。今回のテーマは「水害対策」です。
2018年7月に起きた西日本豪雨が記憶に残る中、今年も集中豪雨による河川の氾濫などの水害が全国各地で発生。政府でも避難勧告に関するガイドラインを改定するなど、防災情報を分かりやすく提供するよう努めています。
※内閣府「避難勧告等に関するガイドラインの改定」
http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/h30_hinankankoku_guideline/index.html
これまでこうした災害が起きるたびに「自治体の避難勧告は適切だったのか?」という話題が繰り返し注目されています。タイミングが遅い、逆に過剰である、といった具合です。
しかし自分と家族の命を守るのは本来自分自身であり、「避難勧告」はあくまでも「きっかけ」にすぎないはずです。
そこで今回は、行政の指示に命を委ねるのではなく、正しい準備と適切な行動で水害から命を守る対策を、備え・防災アドバイザーの高荷智也さんに解説していただきます。
水害への備え① ハザードマップで災害リスク(避難の必要性)を調べる
日本中どこでも生じる可能性がある大地震や火災と異なり、浸水害や土砂災害といった水害は生じる場所がほとんど決まっています。
自治体から避難勧告が発令された場合も、そもそも避難が不要である地域に住んでいる場合、大雨の中を避難場所まで移動する必要はありません。まして子どもがいる場合などはなおさらです。
水害対策の基本は「自宅周辺で水害が生じるかを調べる」ことです。
ハザードマップを見る
そこで参考になる資料が、浸水発生時の影響度合いと避難場所が地図上に記された「水害ハザードマップ」です。
作成時期により多少内容は異なりますが、「浸水範囲・深さ・水が引くまでの時間」などの影響と「避難場所」が記されています。また2015年以降に作成されたハザードマップには、洪水で家屋が破壊される地域なども記載されています。まずは水害による自宅への影響を確認してください。
水害ハザードマップは浸水の原因ごとに異なる地図が作製されます。
川などがあふれる「洪水」ハザードマップ、下水などがあふれる「内水はん濫」ハザードマップ、海岸付近で生じる「高潮」ハザードマップなどがあります。また大雨で浸水とあわせて生じる「土砂災害」ハザードマップについても確認が必要です。
1種類のハザードマップだけを見て安心するのではなく、自宅周辺に複数のハザードマップがないかを確認しましょう。
ハザードマップは、「○○市 ハザードマップ」「○○区 水害ハザードマップ」などのキーワードで検索するとすぐ閲覧できます。パソコンで検索→PDFファイルを保存→紙に印刷すれば、家族全員でハザードマップを見られますし、災害時にもそのまま持ち出すことができるので便利です。
「ハザードマップがない=安全」ではない
ハザードマップは日本全土・あらゆる河川に対して作成されるわけではなく、洪水であれば大きな河川(洪水予報河川・水位周知河川)、内水はん濫であれば都市部など、基本的に人口が多い地域から優先して作成されます。
自宅周辺のハザードマップ見つからなかった場合、それは安全を意味するのではなく、単に資料化されていないだけの可能性があります。
そこで必ず実践していただきたいのが自宅周辺の観察。
「小さな川や用水路がある・周囲より土地が低い・ガケが近くにある・自宅が沢地である」といった場合は、雨天時に自宅の周りを観察しておき、「尋常ではない大雨」の際に自宅が安全なのかどうかを見極めておく必要があります。
浸水や土砂災害の可能性がある地域であれば、ハザードマップの有無にかかわらず避難計画が必須です。
ハザードマップ&目視で何を調べればよいのか
「ハザードマップ(洪水・内水・高潮・土砂災害)」や「周囲の観察」を通じて、そもそも避難が必要なのかどうかを確認する必要があります。
■“立退き避難(水平避難)”が必要な家庭
自宅に留まると「命に危険が生じる」場合は、土砂災害に飲み込まれたり、浸水で身動きが取れなくなったりする前に、立退き避難(避難場所などへの水平避難)が必要です。具体的には以下のパターンが想定されます。
●土砂災害に巻き込まれる可能性がある
・自宅が、ハザードマップの「土砂災害危険箇所・土砂災害警戒区域」に立地する
・自宅の至近にガケなどがあり、自宅が土砂に飲まれる可能性がある
●洪水(外水はん濫)で自宅が倒壊する可能性がある
・自宅が、ハザードマップの「早期の立退き避難が必要な区域」に立地する
・自宅の至近に河川があり、堤防が決壊すると濁流にのまれる可能性がある
●浸水時に「寝室」がある深さまで水が到達する可能性がある
・就寝時に浸水が発生した場合、建物が無事でも避難が遅れると命に危険が生じる。
・原則として避難が不要である家庭
一方、土砂災害の危険がない地域、浸水しない地域、また浸水したとしても床下程度の深さが想定される地域の場合は、避難が不要である可能性があります。
ただし、自宅は被害を免れても電気・ガス・水道などのライフラインが停止する可能性があるため、地震対策を兼ねた防災備蓄などはどのような家庭においても必要です。
水害への備え② いつでも避難できるよう事前準備を万全に
自宅が「“立退き避難(水平避難)”の必要な家庭」に該当する場合は避難の準備が必要です。
直前になってあわてて準備を始めた場合、自宅の立地によっては手遅れになる場合があります。この場合の手遅れとは「自分と家族が危険にさらされる」ということ。
自宅が浸水地域にあるような場合は、避難場所の把握と非常持ち出し袋の準備をライフワークとして生涯取り組む必要があります。
「避難場所」と「避難所」の違い
ハザードマップに「避難場所(指定緊急避難場所)」と「避難所(指定避難所)」の両方が記載されている場合は、「避難場所」を目指します。
避難場所は命を守る場所で、避難所は自宅が破壊されたりライフラインが停止したりして生活ができなくなった方が一時的に身を寄せる場所、という違いがあります。
また避難場所は災害の種類で変わり、さらに河川洪水の場合は、はん濫した河川によって浸水する地域が変わるため、同じ洪水でもA川の場合はこの小学校、B川の場合はこの中学校という具合に避難場所が異なる場合があります。
避難場所=最寄りの学校と考えず、ハザードマップごとに避難場所がどこなのかを確認してください。
非常持ち出し袋が必要な状況とは
不意打ちで生じる大地震と異なり、気象観測網が整備されている日本の場合、浸水害や土砂災害は数時間〜数日前に予報が出てから発生します。
「気がついたら土砂に飲まれていた」「あっという間に浸水した」というコメントを報道で耳にすることがありますが、これは文字通りの意味ではなく「避難が遅れたため」という枕詞が付いての意味合いとなります。
水害避難の基本は「沈む前・崩れる前に逃げる」が正解です。
とはいえ本当に避難が必要な状況になることは希で、多くの場合は幸運なことに避難が空振りに終わります。逆に考えれば本当に避難が必要な状況というのは、すでに周囲が浸水を始めている手遅れになりつつある状況であると言えます。
この場合は一分一秒を大切にする必要があるため、自宅を素早く安全に飛び出すためのグッズをまとめておくと役立ちます。
水害避難時の非常持ち出し袋について
非常持ち出し袋は水害専用というわけではなく、大地震による津波や延焼火災から避難する際にも必要な準備となります。中身として入れておきたい物を、重要な順に以下へ紹介します。
1)体の一部・生きるために必要な道具
・メガネ・補聴器・杖・医療器具・持病の薬・お薬手帳など
2)安全を確保するための道具
・雨具(レインウェア上下)、LEDヘッドライト、手袋、マスク、ヘルメット、応急手当セットなど
3)情報収集の道具
・印刷したハザードマップ、乾電池スマホ充電器、ポケットラジオ、ペンとメモ帳、家族の連絡先メモや写真など
4)避難先で使用する道具
・1回分の着替えとタオル(水害用)、アルミブランケット、使い捨てカイロなど。冬場は防寒グッズを少し増やす
・非常用トイレ数回分、ウェットティッシュなど
5)水と食料
・携行食少量(そのまま食べられる物)、水少量(500mlペットボトル1〜2本)、ゼリー飲料など。夏場は熱中症対策で水を少し増やす
6)個別用品
・生理用品、赤ちゃん用品、介護用品、ペット用品など、自分や家族には不可欠だが避難場所・避難所では入手しづらい物を追加
避難時は両手を空けることが望ましいため、雨具は傘ではなくレインウェア、ライトは懐中電灯ではなくヘッドライト、バッグもスーツケースではなくリュックサックが望ましいです。
また水害避難所は足下が滑りやすく、また素早く移動しなければならない可能性があるため、重量は「背負った際に走れる重さ」にとどめます。特に食料品が重たいため、無理なく背負える重さに調整してください。
避難を判断するための情報収集と避難場所への移動
「避難情報」は自治体から知らされますが、実際に行動するかどうかを決めるのは自分と家族です。
インターネットの普及に伴い、自治体が避難情報を発令する際の参考情報と同じものを、今は誰でもスマホやパソコンで閲覧できます。自治体からの避難情報を「きっかけ」として活用し、家族を守るための情報は自分で調べにいくという意識が必要です。
数日先の大雨や台風の情報を収集する
自宅が「“立退き避難(水平避難)”の必要な家庭」に該当し、災害を伴う大雨の可能性に関する報道が出された場合は、情報収集が必要になります。
各種ニュースを見ることも重要ですが、以下の気象庁サイトを活用すると、「いつ・どこに・なにが」生じるのかを詳しく調べることができます。
■「早期注意情報(警報級の可能性)」(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/keika/
この一覧から自分が住んでいる都道府県→市町村のページを開くと、5日先までの各種気象警報の可能性を閲覧することができます。「いつ・どこに・どのくらい」の情報が分かりやすい台風と異なり、それ以外の「大雨」については被害の特定がしづらいため、こうしたページが参考になります。
1日〜数時間先の災害の情報を収集
①気象庁の「防災気象情報(いわゆる警報など)」を確認
②自治体からの「避難情報(いわゆる避難勧告など)」を確認
災害発生の可能性が高まると、気象庁や自治体から各種情報が発表されるようになりますので、スマホ・パソコン・テレビなどを用いて、具体的な危険が迫っていることを把握します。ただしこれらの情報は「○○市全域、○○万人に避難指示」といった具合に、地域が広めに発表されることがあるため、情報の絞り込みが必要になります。
また2019年の6月から運用が始まった「警戒レベル」では、「警戒レベル4」を「全員避難」と位置づけていますが、実際に対象者全員が「本当に」避難をした場合、すべてを収容できる避難場所はありません。あくまでも「避難が必要な人は全員避難」という意味合いで発表されるのです。
自宅が堤防の真横にあったり、浸水時に完全に水没する地域などに住んでいたりする場合は、毎回空振りに終わったとしても事前避難をすることが望ましいのですが、それが難しい場合は「今回は本当に危ないのか?」「うちの地域は実際どうなのか?」を確認し、「本当に自宅周辺がヤバイ」と判断される場合だけでも避難行動を取るようにしてください。
リアルタイム〜1時間先の災害の情報を収集
「自宅周辺の直近の危険」を知るためには、気象庁が公開している「大雨・洪水警報の危険度分布」ページが参考になります。
現在または1時間先に自宅周辺が「警戒レベル3・4」に該当する状態になる場合は、避難を準備する、または避難を開始するといった行動を取ります。
■自宅が「土砂災害危険箇所・土砂災害警戒区域」に該当する場合、または近くに土砂災害の危険がある地形が存在する場合
・大雨警報(土砂災害)の危険度分布(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jp/doshamesh/
■自宅が都市部など、大雨で水が溢れやすい場所にある場合
・大雨警報(浸水害)の危険度分布(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jp/suigaimesh/inund.html
■自宅周辺に河川がある場合
・洪水警報の危険度分布(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jp/suigaimesh/flood.html
※大きな河川の場合は、危険度分布ではなく以下の情報をもとに、自治体からの避難情報が発令されるので、最寄りに下記に該当する河川がある場合は、あわせて状況を確認してください
・指定河川洪水予報
https://www.jma.go.jp/jp/flood/
・川の防災情報
http://www.river.go.jp/kawabou/ipAreaJump.do?gamenId=01-0201&refineType=1&fldCtlParty=no
避難場所への移動について
自宅から避難場所への立退き避難(水平避難)を行う際、避難が遅れてすでに周囲が浸水している場合は、無理に避難場所まで移動するのではなく、自宅の高い場所などへの「垂直避難」を行うことも検討します。
垂直避難をしても自宅が完全に水没する危険がある場合は、手遅れになる前に避難場所まで移動をするか、救助を求めることになりますが、マンションに住んでいたり自宅の2階が水没したりする可能性が低い場合などは、屋内に留まる方が安全な場合があります。
また浸水して足下が見えない状況での避難は、大変な危険を伴います。フタが外れたマンホールや側溝、道路との境がなくなった用水路や暗渠(地下に設けた水路)へ落下した場合はもう助からない可能性が高いですし、鋭利な物や危険な物が流されている場合は踏み抜く恐れもあります。
浸水で足下が見えない状況では、垂直避難をしても命に危険が生じる可能性がある場合を除き、移動しない方がよいのです。
足下が見えない状況を移動する場合は、杖・登山ストック・突っ張り棒・傘など何でも構いませんので、棒を使って足下の確認をしながら移動します。
また浸水が始める前であれば長靴などを履いていっても構いませんが、長靴が浸水する深さを移動する場合は脱げやすくなるため、靴底が分厚く溝が深い、できればハイネックの紐靴を履いて、脱げないようにきつくヒモをしばって移動してください。
いざという時に役立つ水害への備えと、実際に水害が迫った時に命を守るための行動についてご紹介しました。
いざ大規模な災害が起きた場合、必ず誰かが助けてくれるという保証はありません。それでも地震と比べたら水害は「いつ・どこで・どのように起きるか」が想定しやすいもの。
だからこそ、入手できる災害情報のチェックを怠らず、そして日ごろから危機意識と当事者意識を持ち、大切な家族の安全を率先して守っていってください。