深海の世界の魅力をJAMSTEC・高井研さんが語る!映画『深海のサバイバル!』で“地球最後のフロンティア”を探究しよう

深海の世界の魅力をJAMSTEC・高井研さんが語る!映画『深海のサバイバル!』で“地球最後のフロンティア”を探究しよう

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  1. 小学生の愛読書「科学漫画サバイバル」シリーズの人気作が待望の映画化!
  2. “生命の起源”の解明を追い求めて深海を探究
  3. 未知なる世界に大人が本気でワクワクすれば、子どもの好奇心も刺激される

小学生の愛読書「科学漫画サバイバル」シリーズの人気作が待望の映画化!

皆さんは「科学漫画サバイバル」シリーズという学習漫画をご存じですか? 生き物から自然やAIまで科学に関するあらゆるテーマを扱い、手に汗握る冒険を読み進めるうちに科学や理科の知識が身につく漫画として小学生に大人気で、「第2回 小学生がえらぶ!”こどもの本”総選挙」(2020年発表)シリーズランキング第1位などにも選ばれています。

この人気漫画の映画化第2弾にして、原作シリーズの中で最も累計発行部数が多い『深海のサバイバル!』が8月13日(金)から全国公開! パパたちが我が子と一緒に本作を劇場で鑑賞する前に、テーマとなる深海の世界についての理解と興味を深められるよう、映画で深海調査の監修を務めた海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球生物学者・高井研さんにインタビュー。潜水艇に乗って何度も深海で調査した経験を持つ微生物研究の第一人者である高井さんに、“地球最後のフロンティア”と呼ばれる深海の魅力や、本作をきっかけに子どもに芽生えた知的好奇心を深めるコツなど語っていただきます。

■映画『深海のサバイバル!』予告編

映画「深海のサバイバル!」予告編が遂に解禁!!

出典: YouTube

“生命の起源”の解明を追い求めて深海を探究

オンライン取材に応じる高井研さん

──高井さんが研究対象として深海微生物に興味を抱いた時期ときっかけは?

高校時代から生物学の研究者を志すようになった私が、実際に深海微生物を研究しようと思ったのは大学3年生ごろ。それまで特に微生物や海が好きというわけではありませんでしたが、私には「ノーベル賞を取って世界で有名になりたい」という夢があり、そのためには分子生物学を研究テーマに定めることが近道と思っていました。そして、大学で専攻していた水産学において分子生物学と関係するテーマが微生物で、すべてはノーベル賞のためでした(笑)。

──最初から深海や微生物が好きというわけではなかったのですね。実際に研究を進めていく中でそうした気持ちに変化は生まれましたか?

最初は“成り上がり”というよこしまな目的で始めた研究でしたが、アメリカ留学中に砂漠の中にある研究所に赴いて1年間ほど海から離れ、久しぶりに船に乗ったら海の美しさに魅了されたんです。そして改めて深海の研究への情熱に目覚め、それからは純粋に深海の世界が好きになりました。

──これまでどのような深海の研究を行ってきたのですか?

大学で「深海の熱水噴出孔に生息し、そこから吹き出ている地球内部のエネルギーを食べている微生物は、生命の起源を解くカギになる」と教わり、それからは「これまで多くの天才が挑んで誰も解けなかった生命の起源を解けるかもしれない」という思いが私の研究の大きなモチベーションとなりました。そして今も、深海に広がる誰も知らない微生物の世界を明らかにすることや、その先に隠されている生命の起源の探究が楽しくて研究を続けています。さらに、深海を通じて生命の起源を探究していく中で「地球以外の天体でも同じように生命が誕生しうる」と感じられるようになり、宇宙の海に生息しているかもしれない生命へと研究対象を広げています。

──高井さんが目指している生命の起源の解明まで、現時点でどこまで迫っていますか?

私の頭の中では解明できていますが、その答えを誰もが納得できる科学的な方法で証明するには、まだ時間と資金が必要ですね。達成度としては60%ぐらい。生命の起源を解明してもノーベル賞の対象にはなりませんが、それより大きな誇りや達成感を得られると思っています。

──現在、高井さんが部門長を務めているJAMSTECの超先鋭研究開発部門は研究と同時に「国民への科学・技術への興味と関心の喚起」も目指していると伺いましたが、そのためには何が必要だと思いますか?

自分が楽しいと思っていないことを他人が面白く思ってくれるわけがないので、まずは研究者自身が研究を楽しむことが大切。ただし、自分しか興味を持てないような研究は趣味でしかありません。そうではなく、自分の周りにいる多くの人も楽しいと思えるような研究を行いたい。そしてただ研究するだけでなく、その内容がどれだけ楽しいものか人々に伝えることも、我々の使命だと思っています。

──自分以外の人に研究の楽しさを伝えるにあたって、高井さんであればどのような人を念頭に置きますか?

いきなり全世界の人々を対象にするのは難しいので、まずは家族。妻・子ども・親・親戚という最も身近な人たちに話して「そんな面白い研究をしてるんだ」と関心を持ってくれないことには話になりません。さらに、その周りに広がる“知り合いの知り合い”といった地域の人々にも伝え、そうした人たちにもワクワクしてもらえるような研究が大切です。

未知なる世界に大人が本気でワクワクすれば、子どもの好奇心も刺激される

──今回、JAMSTECが監修を務めた映画『深海のサバイバル!』も、冒険を通じて深海を探究する面白さを伝える内容となっていますが、どのように監修に臨みましたか?

こうした冒険ストーリーの監修にあたって、私たち研究者はどうしてもリアリティに対してツッコミたくなるものですが、リアリティにこだわりすぎると原作の世界観を壊してしまうことになります。見る人が映画を通じて深海や科学に関心を持ってくれることが第一なので、その入口となる妄想の余地を消してはいけない。かといって、詳しい人に「こんなの現実にありえない」と思われるのもよくない。そうしたリアリティと冒険のバランスを取れるように注意を払いました。

ジオ、ピピ、コン博士は潜水艇アンモナイト号に乗り、水深数千メートルの深海を目指す

──リアリティと冒険の両立に注意した監修シーンの具体例があれば教えていただけますか?

原作でいろんな場所ごとに起きるハプニングについて「この場所でこういうことは起こりえない」というものがあれば、ストーリーを大きく変えない範囲でリアリティのある描写をアドバイスしました。例えば、水中で噴出するマグマが当初は空中へ噴火するようなイメージで描かれていましたが、実際の水中ではそこまで激しくはならない。でも、船がピンチに陥るぐらいの描写も必要なので、ギリギリのリアリティを実現できるよう監修に努めました。

──専門家の目線から興味を惹かれた深海描写はありましたか?

深海へ潜水した主人公たちが塩水湖を発見するシーンがありますが、私は以前から紅海の深海塩水調査を計画していて、深海研究者にとって最もホットな研究対象がいきなり登場したことに「えっ、知ってたの?」とビックリしました。そういう思い入れもあって、塩水湖についてはより熱心に監修しています。

──映画で子どもたちに注目してほしいポイントがあれば教えてください。

主人公のジオ君がアトラスという潜水スーツを着用し深海でサバイバルを繰り広げますが、あんな高性能スーツがあれば深海潜水艇が必要ないんですよ(笑)。だから私たち研究者にとっては欲しくてたまらない。将来大きくなったらぜひアトラスのような潜水スーツを開発し、深海の研究を後押ししてほしいですね。あと、終盤でジオ君とコン博士が交わす熱い会話には思わず私も心を動かされたので、子どもだけでなく大人も注目してください。

最新鋭の潜水スーツを着用して海中へ飛び出したジオにダイオウイカが襲う

──映画を通じて深海の世界について知識を得た子どもたちが、その関心をさらに深めていけるようパパにできるサポートがあればアドバイスをいただけますか。

子どものときは、分からないことや得体の知れないものに対してワクワクします。私も幼い頃は宇宙人も幽霊も信じていて、「水曜スペシャル」みたいな謎系の番組も全部ダマされて信じていましたよ(笑)。でも、私の母親はそんな我が子を見てもバカにせず一緒にビックリしてくれ、おじさんも「UFOは本当にある」と言って私を怖がらせていました(笑)。そしてこうした幼い頃のワクワクやビックリは、確実に今の自分の探究心の礎となっています。この映画もそうですが、大人が「そんなのありえないよ」と冷めた気持ちで応じてしまうと子どもも冷めてしまうので、パパたちもぜひ子どもと一緒にワクワクしてほしいですね

──それはワクワクしているふりを見せるのではなく、本心からワクワクするということですね。

はい。子どもが「僕たちより物知りなパパやママでもこんなにワクワクするんだ」と思ってくれるほど、大人自身も本気で熱中するのが最も理想です。親子で一緒に盛り上がれば、子どもの好奇心がいっそう刺激されると思いますよ。

──では最後に、パパ読者や子どもたちに向けてメッセージがあればお願いします。

今年2021年から、国連が目標として掲げる「持続可能な開発のための海洋科学の10年」がスタートし、その中に「夢のある魅力的な海」というスローガンがあります。人間にとって“心揺さぶる魅力的”な瞬間というのは、これまで未知だったものに人間が挑み、その内容が分かり始める瞬間だと私は思います。深海の世界を明らかにしていく私たちの研究を通じて、巨大な未知への挑戦というストーリーをぜひ楽しんでください。

<プロフィール>
高井 研(たかい けん)
地球生物学者。国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)超先鋭研究開発部門 部門長。1997年、京都大学大学院農学研究科水産学専攻博士課程修了。同年より独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者となり、深海熱水における微生物研究の第一人者として生命の起源に迫る研究を続けている。著書に「生命の起源はどこまでわかったか――深海と宇宙から迫る」(岩波書店)など。

<作品情報>
『深海のサバイバル!』
2021年8月13日(金)全国公開
原作:「科学漫画サバイバル」シリーズ(朝日新聞出版)
監督:入好さとる
脚本:村山功
監修:JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)
制作:東映アニメーション ぎゃろっぷ
声の出演:松田颯水 潘めぐみ 石田彰 山口勝平 岩崎ひろし 東地宏樹 / 伊沢拓司
配給:東映
【主題歌】
・曲名:いつだってサバイバル!
・作詞・作曲:大原ゆい子
・編曲:manzo
・歌:大原ゆい子 with  ジオ・ピピ(松田颯水・潘めぐみ)
・レーベル名:TOHO animation RECORDS
©Gomdori co., Han Hyun-Dong/Mirae N/Jeong Jun-Gyu/Ludens Media /朝日新聞出版 ©2021東映まんがまつり製作委員会

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