「“空想”による育休議論を終わらせよう」Daddy's Talk 第2回・前編 梅田悟司さん(元電通コピーライター)

「“空想”による育休議論を終わらせよう」Daddy's Talk 第2回・前編 梅田悟司さん(元電通コピーライター)

育休

各分野で独特の感性を発揮し目覚ましい活躍を遂げているパパたちは、どのような家庭生活を送っているのか──。そんな気になる疑問を掘り下げる「Daddy's Talk」。


今回は、電通コピーライター時代に「世界は誰かの仕事でできている」(ジョージア)や「バイトするならタウンワーク」など数多くの名コピーを生み出した、インクルージョン・ジャパン株式会社取締役の梅田悟司さんにインタビュー。


電通在籍時に4カ月間の育休を取得し、さらにその体験談をtwitterに投稿し話題を集めた梅田さんの思いに迫ります。


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「バリバリの電通マン」が育休を取るまで

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──自らの育休体験にまつわる梅田さんのツイートは大きな反響を集めましたね。ところで、育休を取得したのはいつ頃のことですか?


今は子どもが2歳8カ月で、生まれる直前からの4カ月間育休を取得しました。


──育休を取得しようと思ったきっかけは何ですか?


妻は中国の伝統医学に基づいた「薬膳」を生活に取り入れているのですが、薬膳の教えによると産後は水に触れてはいけないそうで、妻に「産後2カ月は水に触れない方がいいんだって」と言われたのがきっかけです。


つまり「水仕事はできない」と宣言されたわけで、直接的に頼まれてはいませんが選択の余地なく育休を取得することになりました(笑)。


──そんなプレッシャーを掛けられたら育休を取らざるをえませんね! では期間を4カ月に定めた理由は?


妻の希望に沿うには最低でも2カ月は休む必要があります。出産予定の11月から休むとして、会社の年度末にあたる翌年3月までがちょうどいい区切りになると思い、4カ月の期間で育休を申請しました。


──当時はまだ電通に在籍していた頃ですが、周囲の反応は?


まさか僕が育休を取るなんて誰も想像していなかったようで、「またまた、冗談でしょ」みたいな反応でした(笑)。広告会社の最前線でバリバリ働く男性社員が育休を、しかも4カ月間も取るなんてあり得ないと思ったのでしょうね。

宣言しても周りが信じてくれていないようだったので、行動予定を記入する職場のホワイトボードに「梅田 11月〜3月まで育休」と赤ペンで書いておきました。


育休体験を通じて理解できた、家事育児の過酷さ

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──育休に備えて何か準備したことはありますか?


「準備がすべて」です。育休を取り始めたところから何かをスタートするようでは、極端ですが「いない方がマシ」となってしまうと思います。

一人暮らしの経験があったので、料理や洗濯の基本は身につけていましたが、育休前に定期的に行っていた家事といえば、休日に昼食を作ったり床掃除をするぐらい。さすがにその程度の家事スキルでは戦力になれないので、育休開始の3カ月前から妻に料理を習ったり、家事をするようになりました。


──本番前にみっちり予行演習を積んだわけですね。


予行演習は絶対に必要です。いざ子どもが生まれたら母親は子どものお世話で手いっぱいで、父親に家事のやり方を教える余裕なんてありません。本当に足手まといになります。必ず子どもが生まれる前に、家事のやり方を教わったり、何をしてほしいのかなどの確認をしておくべきです。


──そこまで万全の準備を積めば、育休中もスムーズに過ごせたのではないでしょうか?


出産直後は病院へ通いながら家の用事をちょこっと済ませる程度で、「育休、楽勝だな」と余裕がありました(笑)。でも、妻と子どもが家に帰ってからは“育休”よりも“育労”という言葉がふさわしい日々が続き、ひたすら過酷でした…。


──何が一番大変でした?


仕事には納期があります。つまり、終わりがあるのです。しかし、毎日続く家事や育児には「ここまで」というゴールがありません。また、産後院で基本的なことは習ったものの、育児は何もかもが初めての体験でなかなかうまく実践でききない。練習と本番は全く違うんです。

いかにそれまで自分が仕事などで「こうすればいい」というお膳立てをしてもらっていたか痛感しましたね。そうしたすべてをひっくるめた状況で常に緊張感を強いられるのがなかなかのハードモードで、自分の無力さに途方に暮れる日々を過ごしました。


──タスク型の仕事を常とする男性にとって「終わりがない」「答えがない」という状況は途方に暮れますよね。そうした育休体験を経て得られた変化や気づきはありましたか?


基本的には妻も僕も細かいところまで気になるタイプなのですが、いざ子どもを育て始めると、すべてにおいて完璧を求めるのは到底不可能。そこで「必要十分のことをできればいいよね」と妻と合意し、例えば冷凍食品を上手に活用し効率を重視するなど、手を抜けるところは抜く“ずぼら”である自分を許すことから始めました。


──家事育児において夫婦が同じ価値観を共有するのは大事ですよね。他にも何かありますか?


日々、家事をこなす人への敬意が芽生えました(笑)。本当にリスペクトしています。

また、実際に毎日家事と向き合うことで、家事に対する“解像度”が上がりました。家事って「炊事」「洗濯」「掃除」というカテゴリー単位で認識されがちですが、その中には“名もなき家事”が数多く存在しますよね。そうした気づきを得たことで、例えば水切りカゴに置いてある食器を拭いて食器棚に戻すといった細々とした家事を自分が率先して済ませるようになりました。


リアルな育休体験を言葉で伝えて“イメージ論争”に一石を投じたい

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──梅田さんの育休体験にまつわる一連のツイートが、1200万回のインプレッション(ツイートが見られた回数)、15万を超える「いいね」を獲得する反響を集めたのですが、なぜご自身の体験をツイートしようと思い立ったのですか?


育休はたびたび世間で論争される話題なのですが、その論争の渦中には、育休を取った男性も、パートナーが育休を取って一緒に育児をした女性もいない。つまり、当事者がいないのです。そこで起きるのは、空想やイメージだけの本質的ではない議論だけです。

「一人で家事育児を行うのは大変。パートナーには育休を取ってほしい」と要望する女性に対し、男性が「仕事が忙しいのに取れるわけがない」と反論する断裂が起きます。ここから一歩も前に進んでいないのが現状ですよね。


──そうした具体性の伴わない議論だと、建設的な意見に発展するのは難しそうですね。


コピーライターである僕の仕事は“言語化”すること。こうした無意味な“イメージ論争”をやめて、議論を前に進めるためには、実際に育休を取得した当事者のリアルな声を挙げるのが一番だと思い、当時の経験を思い出しながらツイートしたのです。


──梅田さんのツイートをきっかけに論争の形に変化は感じられましたか?


育休体験者のリアルな意見を踏まえることで、そのリアルを前提とした議論が生まれるようになったと思います。主に女性から挙がったのは、「それ分かる!」「旦那に読ませたい!」といった、子育てや家族を守る大変さへの共感の声。「まさに自分が思っていたことだから、言語化してくれてスッキリした」という意見も届きました。

その一方、「(育児より)仕事の方が楽」というツイートに対して「仕事をなめてるのか」「そんな甘い考えのお前とは仕事をしたくない」という否定的な反応もありました(笑)。でも、それまで「仕事が大変だから育休なんて無理」という空想のロジックを振りかざしていた人たちにも「バリバリと働く男性が育休を取るという世界は確かにあるのかもしれない」と考えるきっかけを与えられたと思うのです。


──意見の断裂は起きるものの、体験者が議論の中心に立つことで現実的な内容に発展していったのですね。


それは僕のツイートに「自分は実際にこんな体験をして、こう思った」という“リアル”があったから。空想としての育休ではなく、体験としての育休について実りのある議論が深められたのではないでしょうか。


──ツイートによる育休体験の言語化やそこから生まれたさまざまな議論を経て、梅田さんが得られた気づきはありますか?


やっぱり男性は全員育休を取得するべきだと思います。

先ほど挙げた論争も含めて、世の中に起きる意見の断裂の多くは、未体験による不理解から生まれるものだと感じます。体験していないから「家事育児は大変なこと」だと理解できない人がいるわけです。その結果「家にいるだけなのに、何が大変なんだ!」という意見が生まれるわけです。でも、実際に深く家事育児にコミットしたら、「家にいるだけだから、大変だったんだ…」と痛感するはずです(笑)。

繰り返しになりますが、空想の議論は意味がないので、まずは育休を体験してほしいですね。僕のツイートがそうした行動を促すきっかけになったら嬉しいですね。


──今後もご自身の生活体験を言語化した情報発信を考えていますか?


はい。今、自分の中で考えている重要なテーマは家事分担です。家事を行うようになって「家事を自分以外の誰かに任せっきりにするのはもったいない」と思うようになりました。マーケティングの仕事を行う上で、ヒントしかないですからね。


──そのメリットについてもう少し詳しくお聞かせください。


世の中の人たちが携わるビジネスの多くは、何かしら生活に密着しています。つまり、生活の中にビジネスのヒントがあるということ。例えばスーパーへの買い物1つをとっても、消費の現場でユーザーがどう考え行動しているかを生で観察できる。そんな貴重な学びの場を放棄するのはもったいないですよ。

そういう意味でも、育休は“濃厚なユーザー体験”を得られるまたとない機会であり、人生や仕事においても大きな資産になると思います。それこそ「育休は自分の大きなキャリアである」とすら思います。一人ひとりが個人的な動機で育休を取得するだけでなく、生活者の目線を得るための施策として企業にもっと育休を推奨してほしいですね。


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未経験者が男性の育休を“自分ごと”として考えられるようになるには、やはり体験者のリアルな声を伝えるのが最も手っ取り早く効果的。その情報発信の担い手として、梅田さんのように“内なる思いや体験の言語化”に秀でた人の存在はとても貴重だと実感しました。

「育休が自らのキャリアに生きる」という提言も、マーケティングの最前線で活躍しつつ実際に育休を体験した梅田さんならではの着眼ですね。


後編では、梅田さんの夫像・パパ像についてさらに掘り下げます。

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<インタビュー協力>

梅田悟司さん(元電通コピーライター/インクルージョン・ジャパン株式会社 取締役 コミュニ ケーション・ディレクター)

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1979年生まれ。大学院在学中にレコード会社を起業し、その後電通に入社。マーケティングプランナーを経てコピーライターとなり、ジョージアの「世界は誰かの仕事でできている。」など印象に残る名コピーの数々を生み出す。2018年からインクルージョン・ジャパン株式会社の取締役、コミュニケーション・ディレクターに就任。著書にシリーズ累計30万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社・刊)など。