『ジョジョ・ラビット』│ナチスに憧れる少年が遂げていく成長に笑い泣き

『ジョジョ・ラビット』│ナチスに憧れる少年が遂げていく成長に笑い泣き

趣味・遊び

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  1. 子どもが知っておくべき“遠い時代の戦争”を理解するきっかけに
  2. ナチスに憧れる10歳の少年が直面した“戦争の現実”
  3. 戦時下の甘酸っぱい初恋──敵対関係を超えた交流が希望の光を照らす

子どもが知っておくべき“遠い時代の戦争”を理解するきっかけに

2020年度からの新学習指導要領では小学6年生から日本の歴史を習うことになっています。ただし、歴史の授業で学ぶことは遠い時代の人物や出来事ばかりで、筆者の娘がそうなのですが「面白くない」「難しい」と歴史に苦手意識を持つ子も少なくないようです

そうした取っつきにくい歴史に親しむ格好の手段になるのが、漫画や映像などの娯楽コンテンツ。なかでも実写映画は、鬼才クリエイターによる深い洞察や名優たちによる機微豊かな表現力が融合し、遠い時代の出来事を身近な世界として感じさせてくれます。

そこで今回は、子どもが歴史に興味を示すきっかけとなり、また戦争という二度と繰り返してはいけない悲劇を “自分ごと”として理解しやすくなる映画をご紹介します。2020年度アカデミー賞で6部門にノミネートされ、脚色賞に輝いた『ジョジョ・ラビット』です。

ナチスに憧れる10歳の少年が直面した“戦争の現実”

第二次世界大戦末期のドイツ。母親と2人で暮らす心優しい10歳のジョジョは、空想上の友人であるアドルフ・ヒトラーを心の支えに、立派なナチス兵になることを夢見る少年。そしてナチス青少年集団の訓練に参加しますが、訓練でウサギを殺すことができなかったことから仲間たちに弱虫呼ばわりされ、挙げ句にはケガを負って離脱するハメに。意気消沈のジョジョはある日、母が家の中の隠し部屋にユダヤ人少女を匿っていることに気づきます。

主人公の少年ジョジョ(右:ローマン・グリフィン・デイビス)、ジョジョの母ロージー(中央:スカーレット・ヨハンソン)、ナチス青少年集団の教官を務めるクレンツェンドルフ大尉(左:サム・ロックウェル)
© 2019 Twentieth Century Fox

本作はアカデミー作品賞にノミネートされただけでなく、トロント国際映画祭で最高賞にあたる「観客賞」を受賞するなど、世界中で絶賛されました。そうした好評の大きな要因となったのが、辛口なユーモアとハートフルな人間ドラマの絶妙なさじ加減です。

ビートルズの名曲「抱きしめたい」のドイツ語バージョンに熱狂する1960年代の大衆の姿を、ヒトラーに傾倒した戦時下のドイツ国民とオーバーラップさせる冒頭シーンからいきなり絶妙な皮肉! その後、ヒトラーを無邪気に信奉する10歳の少年ジョジョの純粋な視点から映し出される戦時下の日常は、どこかいびつでユーモラス。戦争のバカバカしさが如実に伝わってきます。

しかもこうした戦争の実態をよく知らない無邪気な子ども目線は、戦況が悪化していく物語の後半でジョジョが戦争のむごい現実に直面する、“子どもが子どもらしくいられない”局面で活きてくるのです。戦うことも社会を動かすこともできず、ただ絶望のまま立ちすくむしかない無力な少年の心情が、きっと見る者たちの胸も締めつけることでしょう。

ちなみに本作には原作小説があるのですが、ヒトラーがジョジョの空想上の友人として登場するのは、2人の軽妙なやり取りを通じてユーモアと皮肉を増幅するための映画オリジナルのアイデア。このような、重いテーマをポップに彩りながら心にしっかり焼きつける絶妙な演出が、全編のあらゆるシーンに散りばめられているのでじっくり注目してください。

戦時下の甘酸っぱい初恋──敵対関係を超えた交流が希望の光を照らす

ユダヤ人少女エルサ(左:トーマス・マッケンジー)との交流を通じて、ナチズムに洗脳されていたジョジョは世界の真実を知っていく
© 2019 Twentieth Century Fox

本作は辛辣な視点で戦争の厳しい現実を描く一方、人類の未来を思い描くにあたって希望となるテーマも込められています。それは、生粋の愛国少年ジョジョと、ナチスに迫害されるユダヤ人少女エルサが紡ぐ絆のドラマです。

ユダヤ人を敵視するナチズムの洗脳教育を受けて育ったジョジョは、最初こそエルサに脅されて隠れ家生活に協力しますが、彼女と交流を重ねるうちに「あれ、ユダヤ人って悪い人じゃないぞ。僕と同じ人間じゃないか」と身をもって学ぶのです。そうしてエルサにほのかな恋心を募らせながら、勇気を出して“正しいこと”を実行しようとするジョジョの変化は、「どんなに敵対している者同士でも分かりあうことができる」という愛と寛容のメッセージを大人だけでなく子どもたちにも気づかせてくれることでしょう。

戦時下でも人間性を失わない大人たちに優しく見守られながら(母親役スカーレット・ヨハンソンと教官役サム・ロックウェルが特にイイ!)、現実の厳しさを知りナチス万歳の幻想から目を覚ましたジョジョがたどり着くラストとは──。切なくも温かい涙を誘う感動の余韻に浸りながら、親子で映画の感想を交えて戦争について語り合ってみてはいかがでしょうか。

『ジョジョ・ラビット』(2019年) /ドイツ・アメリカ/ 上映時間:109分
DVD・ブルーレイ発売&レンタル中
© 2019 Twentieth Century Fox