男性の育休が当たり前の社会に──育休取得推進企業に訊く 第2回「積水ハウス」前編

男性の育休が当たり前の社会に──育休取得推進企業に訊く 第2回「積水ハウス」前編

育休

男性の育休取得推進に積極的な企業を取材し、“男性の育休が当たり前”の社会になっていくためのヒントを探っていく連続企画。


第2回でご紹介する企業は、3歳未満の子を持つ男性従業員を対象に1カ月以上の育児休業完全取得を目指す「特別育児休業(イクメン休業)制度」を2018年9月から運用している積水ハウス


昨今議論されている男性の育休義務化を先取りした意欲的な取り組みについて、同社のダイバーシティ推進部課長・森本泰弘さんにお話を伺います。


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積水ハウス株式会社
ダイバーシティ推進部 課長 森本泰弘さん


▼第1回「丸井グループ」はこちら

  男性の育休が当たり前の社会に──育休取得推進企業の社員に訊く育休体験談 第1回「丸井グループ」 “男性の育休が当たり前”の社会になっていくためのヒントを探るため、育休取得推進に積極的な企業に取材する新企画。第1回でご紹介する企業は、男性社員の取得率が109%にまで達した丸井グループです。 家men


北欧流子育て「ラテ・ダッド」が制度化のヒントに


──積水ハウスで男性従業員の育休取得推進に本腰を入れるようになったのはいつからでしょうか?


積水ハウスではこれまでも、3歳未満の子を持つ男性従業員に4日間を有給として育児休暇を取得できる「ハローパパ休暇」を実施しており、2017年度の取得率は95%に達していました。しかし、その実態は平均取得日数がわずか2日というもので、普段の休暇の延長という雰囲気があったのは否めません。

そうした状況に変化が生まれたのは、昨年5月に弊社社長の仲井が欧州への海外IRから帰国してからです。


──具体的にどのようなことがあったのでしょう?


スウェーデンのストックホルムで街並みを視察するために郊外のスマートシティを訪れた際、公園でベビーカーを押して育児をしている方々のほとんどが男性だったということに衝撃を受けたそうです。調べてみると、スウェーデンでは育児をしながら公園を散歩し、途中の喫茶店でカフェを飲むお父さんのことを「ラテ・ダッド」と呼ぶようで、帰国するや「積水ハウスでも男性従業員が長期の育休を取得できるよう検討するように」と指示を受けました。

さっそく社内で議論を重ねて試算も行った末に「1カ月間であれば有給扱いで運用できるのではないか」と骨子がまとまり、昨年7月、「男性従業員1カ月以上の育休完全取得」を実現するとプレスリリースで宣言したのです。


──発案からわずか2カ月で決定というのはかなりのスピードですね! イクメン休業の制度化にあたって重視したことはありますか?


まずは、イクメン休業を取得する意義やその効果等をしっかりと伝えていくこと。また、休業取得者が家族や職場の仲間とコミュニケーションを深めてもらうこと、そして、休業をなるべく取得しやすいように最大4回に分割することを可能にしたことです。


──そして2018年9月から制度が運用されたわけですが、どのようにして制度に対する理解や認知を得ていったのですか?


やはりトップダウンで進めたということが大きいです。社長自らがさまざまな場面でイクメン休業に関するメッセージを発信することで、社外へのアピール度も高まり、社内へも速く浸透しました。

加えて、昨年10月に「イクメンフォーラム」というイベントを開催し、イクメン休業の取得対象となる男性従業員とその上司、さらに部場所責任者や総務責任者など約1900人がWEB会議システムで参加しました。まずは社長の仲井がイクメン休業を創設した意図や取得から得られる効果等についてメッセージを発し、続いてファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也さんに「男性がパパをすること」等について講演していただきました。


イクメン休業は働き方改革につながる

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──イクメンフォーラムを境に社内全体に育休取得推進の風土が定着しましたか?


そうですね。このフォーラムを通じて、イクメン休業完全取得に対する会社の本気度や今後の方向性等について、社内への浸透度合いもかなり深まったのではないかと思っています。しかし、だからと言ってすべての職場ですぐに男性従業員が育休を取得できる環境が整うかというとそうではありません。やはり、これまで長期で休んだ経験のない男性従業員に1カ月も休んでもらうわけですから。


──なかなか難しい問題ではあると思いますが、その課題を解決する道筋はありますか?


まずは社員が助け合う風土を醸成することが求められますが、そこで重要になるのが社員同士のコミュニケーション。積水ハウスでは持続的に成長するビジョンとして「イノベーション&コミュニケーション」を掲げ、職場での充実したコミュニケーションによって相互理解や協力体制がより強固となり、さまざまなイノベーションにつながっていくと考えています。

イクメン休業もまさにそうした面での効果が期待されます。対象従業員が1カ月休むとなると、自分が行っていた仕事やこれまで他の社員に頼めなかった仕事を、すべて引き継ぐ必要に迫られる。また上司の方でも「彼が行っているこの仕事は他の社員に任せたらどうか」と分業体制を調整する。そうした仕事の棚卸しが業務の効率化につながるのです。


──「自分がいなければ仕事が回らない」と一人で業務を抱え込んでしまう思い込みの解消にもつながるのですね。


いわば「人に仕事が付いている」という状況を、育休の取得をきっかけに変えることができる──これが真の働き方改革と言えるのではないでしょうか。いくら会社がワークライフバランスを提唱し残業を規制しても、仕事量や人員が変わらないままだと実現は難しい。イクメン休業で仕事から離れることをきっかけに、業務の平準化や棚卸しが可能となり、より良い働き方のネクストステージが見えてくるはずです。


──働き方改革を推進する役割がイクメン休業制度に期待できそうですね。


「イノベーション&コミュニケーション」以外にも、もう1つ社長が掲げている大きなビジョンがあります。それは「『わが家』を世界一幸せな場所にする」。つまり、お客様に住まいを提供する住宅メーカーが、お客様の住まいを幸せな場所にするには社員自身も幸せでなければならないということです。

結婚し子どもにも恵まれたパパが仕事ばかりの生活を送っていては、幸せな家庭を築くことはできません。かけがえのない乳幼児期に子どもとの絆を深め、奥様と愛情を育む手段としてイクメン休業を活用し、家事育児を積極的にシェアしてほしいと思います。


実際に運用して見えてきた成果と課題

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──イクメン休業の取得状況はいかがでしょうか?


2019年6月末時点の取得対象者1513名のうち、取得計画書を提出した社員が1027名(全体の68%)、そして取得開始者が999名(全体の66%)となっています。取得は義務ではありませんが、制度の主旨を理解した上で対象者全員が取得するよう呼びかけて、最終的には100%に達するよう目指しています。


──実際に制度を運用しはじめて社内からはどのような反応がありましたか?


イクメン休業の取得が完了した従業員へのアンケートや社内のヒアリングを通じて、このような声が寄せられています。

●家族の大切さを再認識し、仕事への責任感とモチベーションがアップした
●同様の境遇の女性の気持ちや苦労が分かった
●今回サポートしてもらった分、今後は自分が「イクボス」として恩返ししたい
●思い切って後輩に仕事を任せたことで、その後輩の成長が見られた


──なるほど。社員同士が助け合う風土の醸成や業務の改善につながっているようですね。


もちろんさまざまな課題も浮上しています。休業取得者本人からは「休業前後の残業・休日出勤が増え、妻の負担が増えた」や、上司や同僚からは「引き継ぎ業務の対応に苦慮した」などという声が挙がりました。


──本人にしか分からない業務も多いでしょうから、引き継ぎを完璧に行うというのは難しいでしょうね。


そういったことも想定し、制度設計として最大4回に分割して取得することも可能にしています。例えば1週間ずつ合計4回に分けて休業すると、業務の引き継ぎがうまくいかずトラブルが起きそうになっても、1週間程度であればリカバーしやすい。職場復帰後に引き継ぎ面の課題を改善してから、再び育休に入ることができる、という感じです。

とはいえ1カ月一括で休んだ方が家庭の生活リズムに順応しやすいし子どもの成長も連続的に見られるといったメリットもあり、一括と分割のどちらが良いのかは一概に言えません。取得者が家庭や職場で十分にコミュニケーションを図り、どう取るのがベストか考える必要があると言えるでしょう。


──1カ月という休業期間についてはどのような意見が寄せられていますか?


取得者本人と奥様にアンケートを行ったところ、いずれも半数以上が「ちょうど良かった」という回答していますが、「長かった」「やや長かった」という回答は本人のほうが多く、「短かった」「やや短かった」という回答は奥様のほうが多いという傾向が見られました。こうした意見を今後も蓄積していくことで、1カ月という休業期間が妥当かどうか検証していきたいと思います。


──男女でギャップが生じているのは興味深い傾向ですね。今後イクメン休業を軌道に乗せていくにあたっての課題や目標はありますか?


制度上の課題としては、職種によって異なる“休みにくさの壁”をどう乗り越えるか。営業や設計、現場監督、総務など、職種が違えば業務スタイルももちろん違います。その中から見えてきた課題を克服するとともに、休みやすい環境をいかに構築できるかが課題だと思います。

また、イクメン休業の運用で重要な存在となるのが「イクボス」。対象従業員にとって、職場のメンバーのワークライフバランスを考慮しながら、自らも仕事と育児を両立させる上司はとても心強い味方です。そうしたイクボスの育成にも力を注いでいきたいと思います。


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昨今議論されている「男性の育休義務化」では休業中の収入減を心配する声も挙がっていますが、対象となる男性従業員に有給扱いで1カ月間の育休取得を求めるイクメン休業制度は、そのモデルケースとなりうるのではないでしょうか。


また、積水ハウスでの運用事例を通じて、育休が家庭だけでなく仕事面でもさまざまなメリットをもたらすことにも気づかされました。男性の育休取得と働き方改革が相互的に推進されることで、より豊かなワークライフバランスの実現できる世の中になるといいですね。


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